ご先祖様、奮闘す。｜リアクション

ご先祖様、奮闘す。

「本当に先祖って盆に帰ってくるんスね……」
　樋野秀吉は感心半分呆れ半分で呟いた。
「今年は特別だからのぅ。子孫とおしゃべりできる特別なお盆じゃ」
　彼の前に立つ秀吉と同じ顔の少年は好々爺然とした笑顔で頷く。
　心霊現象肯定派の秀吉にとって、幽霊と対面するのは貴重な体験だった。
　何より相手は自分の先祖、怖くはない。
　興味本位で握手をしてもらったが、触れているはずの肌の感触はない。空気を掴むような、なんとも奇妙な感じだ。
　これが幽霊の感触なのかと興奮する秀吉に、先祖は今回のおしゃべりの目的を話す。
「ちょっとダメ出しに来たんじゃ。もっとハキハキ喋ってちゃんと友達作るんじゃよ」
「そんなこと言われなくてもわかってる、スよ……」
　簡単そうに先祖は言うが、秀吉にとってそれは難題だった。
「俺だって高校生になったんだから変わりたいとは思ってるし……別に友達羨ましいとか思ってないし……」
「友達といた方が楽しいじゃろ」
　秀吉は無意識に爪を噛む。
「じゃあどうやったら友達できるのか教えてくださいよ……」
　素直になれない自分を奮い立たせ、秀吉は先祖に苦しそうな声で問う。それに先祖は優しく笑った。
「大丈夫じゃ。友達なんてものは挨拶から始めればいい。あとは観察力じゃな。髪型や服はもちろん、化粧が変わっていたならまずそれを褒めるんじゃ。あっという間に仲良くなれる。儂が言うんじゃ、間違いないぞ」
「……なんか違うんじゃないスかね。特に必要のないもの教わった気がするんスけど……」
　これは友達の作り方ではなく女性のナンパの仕方ではないのか。疑わしそうに先祖を見る秀吉。
「若いうちは何事も経験じゃて」
　先祖はマイペースに言うが、秀吉からすればモテ自慢されただけ。まともに相談したのが間違いだったか、と子孫が思ったその時だ。
「ほっほっ、なら玄人向けの友達の作り方を教えてやろう」
　先祖は笑みを消し、秘伝を子孫へと伝授する。
「ぱいたっちじゃ」
「ぱいた……え？　ちょ、え？」
　厳かに先祖が言うものだから釣られて反芻しかけた秀吉だが、ぎりぎりセーフでセクハラ発言を回避した。
「男なら若いうちにおなごの乳を揉むんじゃよ」
　素晴らしいイイ笑顔で先祖は言うが、アウトである。爽やか補正がかかっていたとしてもセウト発言だ。
「ち、ちち……」
「そう、乳。ボインでもちっぱいでも皆平等の、乳じゃ」
「今はそんな時代じゃないッスよ、捕まりますよアンタ……」
「揉みたくないんか？」
「そ、そりゃ俺だって興味あるし触ってみた……って何言わせるんスかなんスかこの先祖！　供え物食って帰ってくださいよ！！！」
　秀吉は実家の仏壇に毎年備えてある饅頭を指した。何故だか知らないがこの場にある以上先祖が食べてもいいだろう。
「知っとるか？　乳って丁度この饅頭蒸かしたくらいに柔らかいんじゃよ？」
　何を言っても先祖は乳の話に繋げてしまう。どれだけ乳マニアだ。
「胸から離れてくれッス！」
「無理じゃあ。乳好きじゃもん。乳さえあれば世界は平和じゃ」
「帰るッス！！」
　コイツ目上でもなんでもねーや、と悟った秀吉は精霊馬を先祖の顔面に投げつけた。

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