（どわっ！　下手こいちまった！！）
　慌てて戻る亨。更衣室の端っこで深呼吸をし、バクバクなる心臓を沈めようとしていると……複数の女子が上がってきた。このままそれを見ていても良かったがその中に宿敵の姿を見つけた。とりあえず体勢を整えようと思った彼は、一旦脱衣所を抜け、外に出るのであった。

　ともかく、温泉で疲れを癒した寝子高生たちは、臨海学校最後の夜を思い思いに楽しむのだった。

＊密かなる戦い？
「いいんちょ！　卓球をしよう？」
「ええ、いいわよ。丁度誰かを誘おうと思っていた所なの」
　伊賀 解理は北風 貴子にラケットとピンポン球を見せて誘い、貴子は笑顔で頷いた。解理としては「旅館に来たからにはやらねばなるまいっ！」と思ったようだ。
（遠泳も終わって後は帰るだけ……なわけがない！　僕の本番はこれからだ！）
　そんな謎の意気込みと共に向うは遊技場。ででんと鎮座する卓球台の前で、解理は楽しげに笑い、貴子が眼鏡を正す。
「そうですね。ルールはどうしましょう？」
「細かい事抜きで、１１点先取にしよう」
　と解理が提案すると、貴子も「シンプルでいいわね」と頷いた。早速じゃんけんをして、勝った解理からサーブをする事に。
（ま、リラックスして遊べたらいいな）
　勝負はすれど、肩の力を抜くことを忘れない。楽しく遊べたらそれがいい。解理は眼鏡を正してラケットを構え、ふふふ、と不敵に笑う。
「行くぞ、いいんちょ。僕の必殺『シェークハンドによる相手の玉を地道に返して粘りに粘りまくるカット戦法』を見せてくれる！」
「なんか長い必殺技ね……」
　呆気に採られながらも、貴子も眼鏡を正して応戦する。解理は早速気合と共にサーブを繰り出した。
　いい音を立てて続くラリー。浴衣姿で楽しむ２人の姿をこっそり楽しむ者がいた。諸事情で逃亡中の七峯 亨だった。背後から迫るのは矢萩 咲。風紀委員であり、『鬼矢萩』のあだ名を持つポニーテール娘だ。
（うをっ！　来たぁあああっ！！）
　彼は慌てて退散し、咲が顔を真っ赤にして追いかけるのであった。

　数分前。運悪く女湯付近で咲と遭遇してしまった亨。その瞬間、咲の目がつん、と吊りあがった。因みに、現在の咲は浴衣姿でとても似合っている。片手にはサイダー。どうやら湯上りの一杯といった所だろうか？
「出ましたね、七峯君！　先日のトラ柄ビキニと亀甲縛りの屈辱……晴らさせていただきますっ！」
「ちょっとまて！　亀甲縛りは違うぞ！　俺じゃねぇ！　いや、ホントだって！！」
　何処からとも無く取り出した木刀を構え、今にも襲い掛からんとする咲。亨は首を振って訴えるも、聞いてもらえそうにない。咲は亨目掛け鋭い突きを矢次早に放ち、一気にしとめようとしていた。
（やられてたまるか！！）
　と、裁縫針を持って反対の手を挙げて指ぱっちん。本日２度目のろっこん『縮身』をつかって小さくなるや、必死に避ける彼であったが……妙に様子がおかしい。不思議に思っていると、咲の頬が桜色に染まっている。
「ふわぁ？！　いや、なんでこんな時に……」
　木刀を杖代わりに身体を支え、僅かにうろたえる咲。実は炭酸飲料で気分的に酔ってしまう酩酊体質であったのだっ！　酔いと恥ずかしさで赤くなる咲は妙に色っぽく、Ｓっ気のある人だったらついついいじめたくなってしまう程愛らしい。
　今が好機！　とばかりに亨は木刀からよじ登り（振り落とそうとしたが、咲は体が動かない！）、脇や横腹を擽ったり、ブラのホックを外したりと悪戯三昧である。くすぐったくてしょうがない咲は涙目になって木刀を握り締める。
「いやぁっ！　そ、そこはらめぇ～～っ！」
「はっはっはっ、不埒な悪行三昧っ！　一寸法師改め一寸桃侍だぜ～っ！」
　調子にのった亨は実にいい笑顔で胸の谷間に収まっていた。なかなかいい心地だなぁ、と思っていたがここでぴたり、と動きが止まる。嫌な予感がして外に飛び出したが、手が飛び出して握りつぶそうとした。
「さっ、さっきはよくもやってくれましたね……っ！」
　サイダーの摂取量が少なかったのか、思いのほか早く酔いのさめた咲は先程より更に怖い顔で亨を睨みつける。これはヤバい、と逃げ出す亨なのであった。

「？　これはどういう事ですか？」
　自主的に見回りをしていた鈴野 加代が元の身長に戻った亨の前に立ちはだかる。と、咲が、
「変態行為の現行犯です！　そいつを取り押さえなさいっ！」
　という。状況を飲み込んだ加代の目つきが鋭くなる。浴衣の帯に括りつけていた白手袋を装備し、狙いを定める！
「どわっ！　ちょっとこれって……」
「このような場所で行う事自体間違っています。その性根、教育してあげますよ！」
　白手袋を両手に装着する事で岩塩を打ち出せるようになるろっこん『三式弾【比叡】』が発動し、亨は必死に岩塩を避ける！　しかし、その後には咲が迫っていた！！
「いい加減にしろ、この破廉恥野郎！！　成敗！！」
　加代は危機を感じ取って避け、同時に放たれる黒いビーム。咲のろっこん『メガエラ・フォース』は憤怒や嫉妬など負の感情が一定値溜まる事で放つ事の出来る物である。
「お、お手柔らかに頼むってぎゃああああああああっ！？」
　ビームにやられ、開け放たれたドアから外へと吹き飛ばされる亨。その後咲にぐりぐりと踏まれ、加代に説教された彼なのであったが、ビームの際浴衣が捲れた為に見えた加代のショーツも含め、「良い夢見させてもらったぜ……」と実にいい笑顔をしていたという。そして、骨はイケナイ音を出しまくっていた。心地良いほどに。
　因みに、咲と加代はサイダーで一服したあと、仲良く見回りをしていた。騒ぎを聞きつけた先生がたにはきっちり報告し、亨は反省の意味も込めて正座させられたのだった。