寝子島バロック狂騒曲｜リアクション

寝子島バロック狂騒曲

「よいしょっと。ふう、暑かったぁ」
　陽太は、音楽室に入ってくるなり、両手に抱えた本の山を机に置いた。
「街の図書館から……バッハについて書いてありそうな本、全部借りてきた……」
　後ろから入ってきた彩斗が報告する。
「お疲れ様！私たちは、学校にある楽譜の目録を調べてるところだよ」
　凛が作業の手を止めて答えた。
　夏休み、昼下がりの音楽室。バッハの出現から一夜明けて、有志たちは謎を解くべく、ふたたび音楽室に集合することになったのだった。
「それにしても、すごい楽譜の量ね……一日で終わるかしら」
　アリーセが誰ともなしに言った。凛、アリーセ、エリューシア、そして美弥子と弥生先生の５人は、音楽準備室の楽譜の調査をしているところだ。
「遅くなったね」
　また音楽室のドアが開き、これまた本の山を抱えた響也と刀が入ってくる。
「学校の図書室にあるバッハ関係の本は、このくらいかな」
「意外とうちの学校の図書室、充実してるんだな。持ってくるのに苦労したよ」
　弥生先生が言った。
「さて、皆さんで手分けして、どうしてバッハさんが出てきたか探っていきましょう。ヒントは、バッハさんの晩年と、作品に関係があるらしい、ということです」
「ですが、先生」
　エリューシアが心配そうに言った。
「肝心のバッハ様がまだいらしてませんわ。もう約束の時間なのに……」
「桜崎や骨削が一緒なんだろう？俺も心配だな」
　刀も気がかりそうに言う。
「八神さん……午前中はバッハさんを連れて街を案内するって言ってた……」
「多分、街歩きが楽しすぎて、それで遅くなってるのかも」
　彩斗の言葉に、美弥子が推測する。
「ま、調べるのは俺たちだけでもできるから、始めようか」
　響也に促され、皆は資料調べに没頭していった。