フジコ先生リターンズ～追試と小さな先生の囁き～｜リアクション

フジコ先生リターンズ～追試と小さな先生の囁き～

脳天カチ割りのお時間です

　納十一は、鼻と唇の間に鉛筆を挟んでぶらぶらさせていた。
　さすがに犬小屋は嫌だな、とか、追加課題が出たら爺ちゃん（※８７歳）に任せちゃお、などと孫としていかがなものか的なことを考えていたらミニフジコが現れたのだが、それを華麗に無視するくらいの度胸は据わっていた。
「夏本番の収穫期に勉強してる場合じゃないしー。よーし、フルスロットル掛けて全部の問題バーっと終わらせちゃお！　爺ちゃんが『多分ここ追試出る問題集』作ってくれたし！」
　納の声はだだ漏れだ。
「あ！　この問題たつで（略した）で見た！」

　メルヒオール・ハルトマンは、隣の席の納をキッと睨む。コイツ、さっきからうるさくて仕方がない。
　にも関わらず意外にサクサク解いている様子なのがさらに頭にくる。
　負けるか、と思うのだが、どうも数式や元素記号のようなものを見ていると、妙に気が遠のく。
　ふわっと意識を手放しかけた瞬間、二の腕をつんつんと突かれた。
「ねぇ、メルだっけ？」
　納だ。メルは不機嫌に返事をする。
「なんだ。筆記用具でも忘れたか」
「此処ちょっとこっそり教えてよ。授業休んで聞いてなくてさ。たつでにも載ってなかったし」
「何故テストで質問をしてくる。教えられるわけがないだろう」
「えー、もしかしてわからないの？」
　メルはカッとなってうっかりこう言ってしまった。
「別にわからない訳じゃない」
「じゃ、答え、何？」
「……２ａ」
「ブッ、ここ文章で答える問題だよ、んなわけないじゃん。えーまさかわかんないの？　だっさ！」
「……君、人をおちょくるのもいい加減にしないか」
　怒りを我慢し、声のトーンを５段階も低くしたメルの目の前に、ぼわんと現れたのはミニフジコ。
　頭に血が上りすぎて幻覚が見え始めたのかと思ったメルは、気を鎮めようと必死に唱える。

　　Nur die Ruhe、この程度のことで心を乱してどうする。
　　これも剣の道を極める為の修行だと思えば乗り越えられるはずだ。
　　集中……集中……wie gewöhnlich……

　そんなメルに追い打ちを掛けるような納の能天気な声。
「あー、ちょっと考えればわかった。ごめーん。ってそこ間違ってるよ」
　自分の回答を覗きこまれ、さらに間違いを指摘されて、メルはぶち切れた。
「Scheiße!　Sei ruhig!」
　何やらドイツ語で叫ぶと、机の脇に立てかけておいた木刀一閃、納の脳天目掛けて太刀筋まっすぐ！

　スパコーン！！

「アバーッ！」
　狩られた獣みたいな叫び声をあげ、納は恐るおそる頭に手をやった。
「よかった、脳みそは出てな……グフ……ッ」
　納、昏睡。

「くっ！　……また詰まらぬものを……」
　そう吐き捨て、メルはハッとした。フジコ先生のギラギラアイがこちらにロックオンしている。
「いや、フジコ先生すまん、手が勝手に……あーもう散々だ！」

　……しかし、納が沈黙したので、メルのその後の試験は捗ったのだった。

終了：理科、数学：メルヒオール・ハルトマン