箒星は夜闇を駆けて｜リアクション

箒星は夜闇を駆けて

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「夜の、お出かけ、って、ロマンチック、だよね」
夜空を見上げながら、緋紅朱赫乃は呟いた。
陽が出ている間のデートもいいけど、星や月の光の中を二人だけで過ごすのも素敵だと思う。
シグレ・ナイトウォーカーが、「そうだな」と静かに答える。
並んで座る二人、お互い隣に感じる体温が心地いい。
一つ、星が流れた。
その様を、シグレは美しいとこぼす。
「昔は凶兆とされていたようだけど、非日常的美しさは時に不安を煽るのかもしれないな」
――と、まぁ余計な御託は置いといて。
「今夜は、箒星が流れる空に相応しいお茶を用意してみた」
星空茶会と洒落込もう。
魔法瓶を取り出すシグレの嬉々とした様子に、赫乃もなんだか嬉しくなってくる。
「いい、香、り」
甘酸っぱいベリーの香りが、鼻をくすぐる。それに澄んだ赤色が、目にも鮮やか。
ベリーとローズヒップがブレンドされたフレーバードティーで、ローズヒップの酸っぱさをベリーが緩和した紅茶だ。
酸っぱさが暑さでバテた身体に元気をくれる、シグレ曰く「夏向け」のフレーバー。
「そして仕上げにこれだ」
澄んだ赤色に見とれる赫乃に微笑みかけ、シグレは紅茶にパラパラと何かを落としていく。
色とりどりのそれは――
「金、平……糖？」
「紅茶の中でほろほろと形が崩れて溶けていくのが、まるで流れ星みたいだろ？」
色とりどりの軌跡を描き、紅茶の中に溶けていく金平糖。
それは確かに、頭上で流れては消えていく箒星のようで。
「……お気に召したかな？」
ニッと口の端を吊り上げて、悪戯っぽくシグレは笑う。
こくりと頷く赫乃。言葉はなくとも、お気に召したことはありありと伝わってきた。
恋人を喜ばせることができたなら、紳士冥利につきるというもの。
少し笑みを深くして、さて、と空をちらりと見やる。
月も休みで、今二人を見下ろしているのは星達だけ。
少しくらい、仲睦まじい様を見せつけたところで罰は当たるまい。
そっと赫乃をかき抱いて、鮮やかな赤色の髪に優しく唇を落とす。
そんなスキンシップに赫乃は甘く蕩けそうな、幸せに溺れそうな感覚に襲われる。
あの金平糖みたいに、トロトロに。
……ふと、今日ぐらいは「シグレさんをドギマギさせてみたい」なんて気持ちが頭をもたげた。
恥ずかしがり屋な赫乃のこと、普段なら人前で甘えるなんてとても恥ずかしいのだけれども。
けど、たまになら。……今日みたいに、他の誰も見ていないような時なら。
「……たし、も」
「……うん？」
「私、も……シグレさん、の、愛で、蕩けたって、いいよ、ね？」
シグレに身体を預けるようにもたれかかった。それはちょうど、金平糖が紅茶に溶けていくように静かに。
鼓動と温もり、そして薫る彼の香りを堪能する。
胸元に顔を埋めながら視線を上げれば、夜空と一緒にシグレの顔が映る。
流れる星を背に、愛しい彼の表情は――。