闇曜日の旧市街｜リアクション

闇曜日の旧市街

「ふわ～ぁ」
　日暮ねむるは、いつものように眠そうにあくびをしながら旧市街を歩いていた。
　と、人にぶつかりかけて、目が覚めた。
「アフロ……？」
　レインボーマーブルのアフロヘアが目の前を過ぎていった。
「だ、誰だろう？」
　どんどん歩いていくアフロの背中を見ていると、小さな飲み屋『たぬきねこ』から、誰かのすすり泣く声が聞こえてきた。
　気になった日暮が中をのぞいてみると、『たぬきねこ』の老夫婦が店の真ん中で立ちつくしていた。
「ははは、やられたよ……」
　大きな腹の主人が笑って見せた。
「誰がこんなこと……？」
「はは、世の中には知らない方がいいこともあるよ」
「でも、こんなの許せない。僕がきっと……」
　日暮は怒りに震えてりんごを握りしめた。
「闇鴉会、というそうだ。本土のコレだよ」
　とこめかみに手を添えて傷を示すジェスチャー。
「（ヤクザ！）」
「だから！　だから、知らなくていいんだ。うちのことは忘れちまいな……」
　日暮は周囲を見回した。
　未成年だけど、この店は知っていた。この辺りの大人はみんな知っている、みんなに愛されている馴染みの店だ。
　店の修復費用は神無組の組長から援助してもらったそうだが、愛着のあるテーブルも、お客さんがくれた時計も時計も、壊されてしまった彼らが癒されることはないだろう。
「大人になったら、きっと飲みに来るよ」
　未来への約束をして店を出て行った。

　この寝子島を脅かす黒い影、闇鴉会。
　既にその情報を集めている男がいた。
　霧島有祈は、星ヶ丘のとあるバー、裏の業界との繋がりがあるとも言われている『stray cat』に来ていた。
　有祈はカウンターに腰掛けると、バーテンは素っ気ない風でありながらも、有祈を二度見した。
　有祈のスーツにはチェーンがぶらさがっているのだ。
　チェーンのスーツのキリシマと言えば、裏の界隈で多少は知られている存在だ。
「お待たせしました」
　バーテンはシェーカーから隠微な色のカクテルを注いだ。
　有祈は酒に手をつけず、尋ねた。
「この島で酔うには、どこへ行けばいい？」
「……」
　酒のことではない、ということはバーテンも気がついたようだ。
「この島では難しいと思います。神無組は、手を出してないそうで」
「それは、有名な話だね」
「……ええ」
「……私はこのカクテルを飲んだら帰るよ」
　そう言うと、有祈はバーテンを冷たい目で見た。
　帰るまでに情報が追加されなければ、何があるかわからない、そんな凄みを感じる目だった。
　バーテンは、既に乾いたグラスを何度も拭いていた。
「……」
　有祈がカクテルグラスに手を添えると、バーテンが静かに話し始めた。
「本土から」
「……本土から？」
「闇鴉会が……」
「しかし手を出してないはずの神無組のシマを荒らす理由がわからない」
「……」
「もう一度言うけど、私は飲んだら帰るよ」
　有祈がカクテルを飲み干してトンッとテーブルに置くと、釣られるようにバーテンが声を上げた。
「今、闇鴉会は検挙されることが多いようです」
「派手に暴れてるようだからね」
「ただ、捕まるのは必ず下っ端も下っ端、それも一人二人、そして必ず拳銃の押収がある」
「警察はさぞかし満足してるだろうね」
「検挙は定期的に行われてますから、検挙率、押収数が着実にあがってます」
　警察署は、この数字が上がれば評価が上がるし、下がれば評価も下がる。評価が上がれば署長以下幹部はは出世しやすくなる訳で、現場の刑事と組んでのこういった「捜査」は昔から噂されている。
　会社の営業成績のようなもので、数字で判断せざるを得ないだけに仕方ない面もあるのだろうが、扱ってる「商品」が犯罪者や拳銃などとなれば、そうも言っていられない。
　有祈は静かに立ち上がった。
「つまり、定期的に行っている『仕事』ということか」
「サツの中に、闇鴉会と繋がって、金と実績を荒稼ぎしてる奴が……」
「ありがとう」
　有祈は明らかに酒代以上の金を置くと、さらなる情報を求めて別の地へ向かった。

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