時刻表で巡る旅　――妄想編――｜リアクション

時刻表で巡る旅　――妄想編――

◆御剣刀　～友人と小旅行～

　刀はシマリス書店で、バイトに精を出していた。
　長期休みの需要を見越し、特設コーナーに山積みされた雑誌に踊るタイトルは、誰もがよく知る観光地。
　一冊を手に取ってパラリと頁を捲れば、新品のインクの香りに胸がすくというものだが、刀の唇からは溜息が零れた。

　日々、学業の傍らバイトや剣術の修行に明け暮れる彼。
　夏休みこそは羽を伸ばそうと、ひそかに楽しみにしていたのに。

　おかしいな。

　我が事ながら、失望した。
　雑誌を戻して見栄え良く整えながら、2度目の溜息を落とす。

　勉強会にも参加したし、自習だって……。あ、あれは途中で剣術の勉強に切り替えたんだった。
「だって何をしたらいいか、全然分からなかったんだ」
　ボヤく刀に、若いカップルが声を掛ける。
「あのー、岩手にゃっぷる取ってください」
「あ、はい、ただいま！」

　……とにかく、刀なりに万全の体制で挑んだテスト。
　神様がもっと気が利いてれば、頑張った分の成果が表れたはずなのに。

　なんてこったい、期末テストで5教科も赤点取るなんて！
　てか野々より酷い――だと？

　友達と泊りがけで、どこか遠くへ遊びに行きたかった。
　一寸だけ悲しげな祖父の顔が脳裏をかすめ、ちょっぴりだけ刀が剣術ばかりに打ち込むのに、両親がいい顔をしなかった理由が分かったような気がした。
　憂鬱である。

　悶々とする刀の目に、時刻表が映った。
　開いてみれば数字の羅列に圧倒されるが、慣れれば段々とイメージが湧いてくる。

　近場で行くにしても、どれくらい時間かかるんだろう？

　鎌倉から、東京へ出て新宿、いや小田原でもいいな。そこから箱根湯本。
　のんびり窓の外の景色を眺めながら、駅弁を食べても時間が余るな。
　誰かと一緒なら、ゲームをしながら時間を潰せる。

　刀は、友人達の顔を思い浮かべた。

「刀くん、遅いよー」
「集合時間を早くして、正解だったわね」
「す、すまん！　火元確認し忘れて……」

　想像の中でまで、低姿勢な自分にも驚くが。
　メンバー全員、魅力的な女の子なのにも吃驚だ……。

　いや男友達も居るから、居るから！
　ぶんぶん頭を振りながら、誰かに向かって主張する刀。

　そうとも。うん、学生支援部の皆と行くのも、楽しそうだな。

「せっかくだし、ボックス席にしようぜ」
　刀が提案すれば、膝をつき合わせて歓談しながらの楽しい旅のスタートだ。
　東京駅で購入した駅弁の包みを解けば、盛りだくさんな内容に歓声が上がり、見せっこが始まる。
「おお、どれも美味そうだな。なあ、おかず交換しないか？」
「いいよ、どれがいい？」
「これだけは譲れないよ」
「そうだ、食う前に皆で写真撮ろうぜ。いい思い出になるしな」
　皆で顔を寄せて、携帯で自撮りする。
（良く撮れてる、楽しそうだな）
　後で皆にも送信しよう。
　携帯を収め、それからはトランプやUNOをしながら、時間はあっという間で。

「山にある温泉とか良いよな」
　連なる山を指差しながら駅を出た一行は、バスがなかなか来ないものだから、思い切って歩き出す。
「いい鍛錬になりそうだ」
　呟けば、こんな所でまで修行の話なんだねーって、また突っ込まれた。
　笑っていたら、待っていたバスに追い越されて、ムキになって走り出した。
　調子に乗って、くたびれて。
　疲れた体を癒やす為に温泉に入って、美味しいご飯を食べる……いいな、凄くいい。これでいこう！

「よーし！　皆で遊びに行くためにも補習と、追試をクリアするか」
　テスト対策の勉強会も、今考えれば何だかんだで楽しかった。

　……結果は散々だったけれど。