ようこそ、木天蓼自動車学校｜リアクション

ようこそ、木天蓼自動車学校

◎頑張れ若者たち　～

　霧生渚砂はバイクの免許に続いて、自動車の免許を取りに教習所に通っていました。
　寝子島に流れ着いた記憶喪失の渚砂ですが、免許はないと困るということで、どうにかなったようです。
「今日もよろしく頼む……お願いします！　若も……きょ、教官」
「渚砂さんったら相変わらずねえ」
　姫野教官がクスクス笑います。
　もう二週間は通っているのに相変わらず敬語が取れてしまったり、若者呼びが癖で出かけてしまったりします。
「でも、自動車免許は絶対欲しいし頑張るぞ！」
　言葉遣いはともかく、運転に関しては問題ない渚砂です。
（運転に関してはバイクの免許で慣れてしまったし、我ながらセンスがある気がする……試験もバッチリだな！
　でも教習時間数ノルマと一日の教習時間が決まっているから今日も２時間、教官と教習だ）
　大抵の生徒がグラマーな教官を意識する中、およそそんなことを気にしていない風の渚砂は姫野教官にとって安心できる生徒のようです。
「渚砂さんは、免許を取ったら彼女と出かけたりするのかしら？」
「え？　車の仕様用途……ですか？　家族とドライブに行けたらいいなーって。
　もし学校にお迎えができる家族が増えたらお迎えもしてあげたいな……とも考えてるんｄ……ます！」
（まずいまずい、敬語つらい！）
「まあ、新しい家族？　それは楽しみねえ」
　嬉しそうに語る渚砂の話は、子供を楽しみにしているようにしか聞こえず（若いのにもうパパになるのかしら？）とニコニコ微笑む姫野教官でした。

「そういえば思ったよりもバイクの免許を取ろうとしている寝子校生多いな！
　皆はどんな目的でバイクの免許を取ろうとしているんだろう？」
　教習を終え、周囲を見ながら改めて思う渚砂です。
　後で食堂で聞いてみようかと考えていると、
「ハロー！　よかったら一緒に筆記試験の問題出し合いっこしませんか？」
　そこへ杏が声をかけてきました。
「問題出し合いっこ？　よし、お兄さんに任せろ、若者よ！」
　教官相手でなければこっちのもの、思う存分渚砂語（？）を使います。
「あら、楽しそうね。私も入れてもらっていい？」
　そして二人が楽しそうに問題出し合いっこをしているのを見て、一度は断った水樹も参入したのでした。

　木天蓼大学の学生である花菱朱音ですが、童顔のために中学生に見られることもあるのが悩みの種です。
（お金も貯まったし免許を取ろうと思ったんだけど……実技難しい……）
　学科はともかく、実技が彼女にとっての難関でした。
　溜息をつきながら車の実技に向かう朱音に、バイクの実技に向かう寝子高３年の青龍寺琴理が声をかけます。
「お互いに取れるよう頑張りましょう」
「ありがとう……バイクなんてすごいなあ」
　小さな声で朱音はつぶやき、教習車に乗り込みます。
　体に風の抵抗を受けるわけではない自動車でさえ、スピードを出すのが怖いのです。
（……２０キロで走るの怖いのに３０キロで走るなんて無理無理無理！！！）
　隣で蛇沼教官が見つめているので口には出せませんが。
（高速で走るおばあちゃんとか、どんだけ凄いのかしら。走るだけならいいけどボンネットに乗るのは勘弁してほしいわ）
　つい趣味の都市伝説のことを考えてしまったり。
「左！」
　黙っていた蛇沼教官の指示にはっと我にかえると、目の前に飛び出した猫が！
　慌ててブレーキを踏みます。
「きゃーーー！　猫ちゃんひいちゃうところだった！！」
「気をつけなさい。寝子島は至るところに猫がいる。君が猫を轢いて嫌な気分になるのは一向に構わないが、下手に避けようとハンドルを切ると大事故になるぞ。
　くれぐれも周りに迷惑はかけないように。それから、さっき歩道に寄りすぎて草に車体が触った……」
　教官はネチネチと嫌味混じりの指導を続けます。
（うぅ……こんなので大丈夫かなぁ……）

　琴理のほうは、指示に従って走行してミスなく正確に運転をこなしたのでした。
（これなら、父のバイクに乗れそうね）
　寝子高生である瑠璃条ベガや鈴野海斗も、順当にバイクの実技をこなしていました。