ようこそ、木天蓼自動車学校｜リアクション

ようこそ、木天蓼自動車学校

◎免許の理由は？　～

　先日１６歳の誕生日を迎えた瑠璃条ベガは、実技と学科の授業を終えて食堂で昼食を食べていました。
（なんとかなりそうでよかった……もうすぐ帰れるよ）
　孤児院「ネコホーム」に住むベガがバイク免許取得の合宿に参加できたのは、恋人の勧めと援助によるものです。
　お金持ちの彼は費用を奢ってくれるつもりのようですが、ベガとしてはいずれ返すつもりです。
　幸い実技も学科も無難にこなせていて、日程をオーバーすることはなさそうです。
「隣、いいですか」
「あ、はい、どうぞ」
　花菱がやってきてベガの隣に座りました。朱音はベガを見ながら思います。
（幼く見えるけど、高校生くらいかしら。でもきっと私も同じくらいに見られてるわよね……）　
　そこへ、安本マコトが声をかけました。
「ちょりーす。どこのガッコの生徒ー？　大学生ー？
　お姉さんたちチョー可愛いねー彼氏いるのー？」
　マコトはチャラ男に見える風体だし、ナンパされたいわけではないですが、大学生に見られたことがちょっぴり嬉しい朱音です。
「大学生よ。彼氏は……内緒」
　好きな人はいるけど、彼氏とまでは言えなくて。
　大人っぽいつもりでそんなふうに答えてしまう朱音です。
「おー、内緒ってことはチャンスありだね♪　俺寝子高２年の安本マコト、お姉さんは？」
「……花菱よ」
「素敵な名前だ！　そっちのお姉さんは？」
「あたし？　あたしは彼氏いるけど。寝子高１年の瑠璃条ベガだよ」
「いるのかー、残念。こんな可愛いんだもんなー。ま、彼氏いてもいいよー。この食堂のメニュー結構美味しいの多いよねー。
　本校の周辺にチョー美味しいスイーツの店あるんだけど、後でみんなで行かない？」
　スイーツ！　ついベガの目が輝きます。
（でも、高いんだろうな……）
　ネコホームの子供たちの顔が目に浮かびます。
　恋人がお金を出してくれたから懐に余裕はありますが、自分だけがそんな贅沢をしていいのでしょうか。
　ベガが顔を曇らせて黙ってしまったところに、霧生渚砂がやってきました。
「やあ若者たち。お兄さんも混ぜてくれないか。皆はどんな目的でバイクの免許を取ろうとしているんだろう？」　
「そりゃ彼女ゲットだよ。やっぱさーバイクにぐらい乗れないとカッコ良くないじゃん？
　バイク乗ってさー、可愛い子と一緒に素敵な場所に行きたいじゃん？
　女の子もバイクに乗れるならツーリングとかも出来るしー？」
　渚砂の問いに、マコトは素直に答えます。
「バイクに乗ると彼女ができるのか……」
　自分の身を考えると、少々複雑な気分になる渚砂です。
「あたしも、彼氏にツーリングに行きたいって誘われたよ。でももう一つの理由は、母さんの形見のバイクがあるからなの。
　１０年位前の型だけど整備だけはちゃんとされてるから」
　ベガが答えると、朱音も口を開きました。
「私は、バイクじゃなく自動車だけど。免許証はある意味最強の身分証明証に近いと思うの……
　そう、あれさえあれば年齢を疑われてもすっと出せるのよ」
「あ、そうかも」
　童顔のベガも思い当たることがあるようです。
「今は学生証があるけどいいけど……卒業した後とかのことを考えるとねぇ……
　まぁそれまでに童顔治るのならいいんだけど……顔の作りとかってそう変わるもんじゃないし。
　後は雰囲気の問題かなぁ……大人の雰囲気……難しい」　
　首を傾げる朱音に渚砂は言います。
「女の子も童顔で悩むものなのか。お兄さんは、可愛くていいと思うぞ」
　そういう自分は、記憶喪失なので実年齢がわからないのですが。
　やがて謡や健太、水樹や鈴野海斗も交えて、免許を取る理由についての話題が盛り上がったのでした。
　スイーツのお店にも、皆興味を示したようです。

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