ようこそ、木天蓼自動車学校｜リアクション

ようこそ、木天蓼自動車学校

◎男子高生、二輪教習中　～

　避暑地の自動車学校合宿所は、夏休みに免許を取ろうとする学生たちで賑わっていました。

　合宿所が混みあって、自動車学校の教習コースに移動させられた行梨謡は無表情でローテンションな様子でバイクの教習を受けていました。
（えっとー、担当教官はあの怖そうな人かー。どうせなら女の人の方が良かったなー楽そうだし）
　近くで教習中の姫川教官にふっと目が行きます。
　そりゃあ男なら当然……と思うでしょうが。
　何を隠そう、謡がここにいるのは（免許をとればいつでも動物園のうさぎさんに会えるのでは？）という思いのためなのです。
　今日だって本当は動物園に行きたい、うさぎさんを愛でたい。
　でもうさぎさんのためなら多少の責め苦はもーまんたい！　です。
　うさぎさんのために免許とるぞー、と心に誓う謡でした。
　しかしそんな彼の健気な思いも知らず、ふんぞり返った鬼川教官は言うのです。
「ゴラァ、てめえ姫ちゃんの巨乳に見とれてんじゃねえ！」
「いやいやボインには興味ないんで。
　俺の理想は前足が短くてお耳が長い真っ白ふわふわの天使なんで」　
「何だとぉ？」
　鬼川教官には理解できなかったようで、ますます謡を睨みつけます。
「やだーヤンキー教官ちょー睨んでるぅー。もしかしてあのボインさんヤンキー教官のこれ？」
　恐れを知らぬ謡は鬼川教官に向かって小指を立てます。
「な、な、な……」
　鬼川のチンピラフェイスがみるみる朱に染まり、わなわなと震えだします。
「それならそうと言って欲しいな。それとも片思い中とか？」
「バ……バカ言ってんじゃねえ！　き、貴様、教官のプ、プライベ……姫ちゃんになんてことを……」
　バシッ！　と竹刀を地面に叩きつけ謡を睨む鬼川でしたが。
「まあいいやーとりあえずバイクの実技ね」
　謡はヤンキー教官の怒りを軽く受け流し、、ひらりとバイクにまたがりました。
「余裕ですわーおっけーおっけー鬼ちゃんまかせて」
（一通りはなんとなく覚えたしなんとかなるだろー）
　軽やかにエンジンをふかし走り出す謡を、歯噛みしながら鬼川は見送るのでした。　

「やっぱさーバイクにぐらい乗れないとカッコ良くないじゃん？」
　安本マコトは、免許を取って彼女をゲットしようと教習にやってきました。
「あの教官チョーセクシー。マジチョーかわいいー。あの教官に教えられたいなー」
　そうつぶやきながらロビーで姫野教官を眺めています。
「やっぱさー、教えてくれる教官が可愛いとやる気出るよねー。
　つーか、ヤクザみたいな教官に教えられるとかマジ勘弁ー手取り足取り教えられるならやっぱ女性のがいいよなー。
『せんせー、ここわかんないー』って言えばみっちり個別で教えてくれるのかなースキンシップとかアリで！」
　しかし現実は甘くありません。
「『担当　蛇沼教官』えーっマジ？」　
　頭をポマードで固めたは虫類のような顔をした中年男が、メガネ越しにこちらを冷たく見つめています。
（マジ最悪じゃん……）
　未練がましく姫野教官を見ながら、涼しいロビーを離れ教習に出ていくマコトでした。　

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