ようこそ、木天蓼自動車学校｜リアクション

ようこそ、木天蓼自動車学校

◎雪乃先生、大丈夫なんですか？　～

　お昼時に混雑する食堂。合宿の生徒も、本校の食堂利用が可能です。
　夏休み中は客寄せのため、普段よりいいメニューが並んでいるとか。

　琴理は、受験勉強をしながらバイクの免許を取りに通っています。
　少し前から通っててもうすぐ運転技能試験。その前の最後の練習です。
　お昼を食べようと教習所の食堂にやってきた琴理は、そこに見知った顔を見つけました。
「島岡先生、隣よろしいですか？」
「えっ……あ……はい、どうぞ」
　おどおどと島岡先生が返事をし、琴理はにっこりと隣にトレイを置き、腰掛けました。
「青龍寺さんも自動車免許を？」
　島岡先生の問いに、琴理は答えます。
「父が乗ってたバイクがあるから私も乗れるようになりたくて。受験勉強もあるから免許取って試験が終わったら乗って少し遠くまで行ってみたいなって思ったから。自動車の免許も取りたいとは思ってます」
「そう……お父さんの。勉強と両立できているのね、偉いわ」
　琴理の両親が亡くなっていることを思い出したのか、島岡先生がちょっと遠い目になりました。
「先生は自動車免許の再取得？　理由とかって聞いてもいいのかしら？
　先生は運転が上手って聞いたことあったから……」
　そんな雰囲気をかき消すように、琴理が明るく尋ねます。
「ええ……それが……」
「ハーイ！　雪乃先生ですか？」
　そこへ、十二月晦日杏もやってきました。
　直接の教え子ではありませんが、たまたま親戚の子に話を聞いて知っていたのです。
「おや、もう一回免許取る人、他にもいたのかい？　シンパシーを感じるね」
　杏と琴理が互いに自己紹介を終えた後、島岡先生は伏し目がちにポツリポツリと話し始めました。
「恥ずかしいけど……免停になってしまって。そんなに荒い運転をしてるつもりはないんですけど……」
「わかるよ！　俺もアメリカ仕込みの運転技術には自信があるのに、怖いteacherに怒鳴られまくったよ。あの、オニとかいうteacher」
「あっ……あの先生、私も教えていただきました」
　島岡先生が顔を上げました。
「乗るときはニヤニヤしてたのに……終ったら顔が真っ青で。制限速度は守って……と震える声で仰ってました」
　困ったように島岡先生が首を傾げる。
「やっぱり運転が荒いんでしょうか……」
「そりゃいいや、ぜひ島岡先生の車に乗せてほしいな！」
　杏は楽しそうに言いますが、琴理は先生が免許を再取得できるのか心配になってきました。
（夏休み明けにでも、再取得できたのか聞いてみましょう）
「君のteacherはどんな感じ？」
　今度は杏が琴理に尋ねます。
「実技の先生は男性ですぐ赤くなる人よ。教え方は上手なんだけど、あんまり私の方を見ないの。
　何故か先生の方が緊張されてるみたい。ヘルメットを取るだけでも少しぼーっと見つめられててちょっと困った事もあるわ」
「へえ、それってやっぱり琴理ちゃんがsexyなので目のやり場がなくて緊張してしまうんじゃない？」
「そうでしょうか。色っぽい教官もいるのに……」
　島岡先生は、にこにこと二人の話を聞いているうちに元気が出てきたようでした。

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