シーサイドタウン二丁目『オカマバー・ネコ』｜リアクション

シーサイドタウン二丁目『オカマバー・ネコ』

●電柱横のゴミ箱より

　二丁目ということで、夜になると町並みはネオンのピンク一色に染まる。
　ネオンは電気。となれば電柱はあるわけで、それはよくある灰色だった。
　そしてその電柱の下には、こちらもよく見かける青いポリバケツがあった。ゴミ箱に使われる大型のもので、蓋の上に三毛猫が座り込んでいる。
　ピンク街ではあるが、そういったものまでピンクというわけではないようだった。
　そしてバケツがカタカタと動き出した。
　振られたオネエの生霊？　掘られたノンケの怨念？
　そのどちらでもない。影に隠れていた後木真央の仕業である。
　彼女がジトと見据えるのはオカマバー『ネコ』。
　彼女の通う高校の教諭・富士山権蔵が入っていった店だ。
　何故彼女が入り口に張り込んでいるかというと、真央は考えたのだ。
(遊びに行くならホストクラブだと思うのだ)
　なんたってフジコ自身が限りなくオネエに近いというかオネエなのだから。
　真央は結論を出した。
(まさか天職見つけて永久就職なのだ！?)
　そしてその結論は更に大きく膨れ上がっていく。
(このまま放っておいたら新学期に校長センセから『富士山センセは転職なさいました』とか残念なお知らせが入っちゃうのだそんなのイヤなのだ～！)
　結果。
(これは出待ちするのだゴミ箱の陰に隠れてゴンちゃん待つのだ一大事なのだ～！)
　という次第であった。
　その時バケツ上の猫が「にゃーん」と鳴く。
「……誰か来たのだっ!?」
　それは真央のろっこん：にゃにゃにゃがおー！で呼び出した猫。見張りを頼んでおいたのだ。
　真央はさっと電柱とバケツの間に身を隠す。
　バケツの影で息を潜めていると「んふ、立樹クンと飲みに行くだなんて初めてねん！」という声が聞こえてきた。
(この店のオネエさんなのだ？)
　見つかったら危険な状況にも関わらず、真央の意識は耳に入ってくることに傾いていく。
「ああ、たしかにそうですね」
「初めてをくれるだなんてん……いやん！」
「あ、はは、」
　楽しげに(と苦笑を混じえて)歩いてくるのは姉小路ネイサンと檜山立樹。
　カフェ&BAR　エルデストの店長とバーテンダーである。
「もうすぐなのねん――あ、ここねん」
「――」
　立樹がなにか反応したようだったが、真央の耳には届かなかった。
「お店はここでいいかしらん？　今セール中なんですってん！」
「店長に、お任せしますよ」
「ふふん、じゃ決まりねん。さあ立樹クン。張り切って飲むわよおおお！」
　そうして声は扉の向こうに消えていった。

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