【旧市街地：港前方面：C4】
　拡大していく封鎖範囲の中、宗次は港前の工場内を隠れるように歩いていた。
「読みは当たったみたいだな。いや、こわいこわい」
　巴の時とは違い、捜査官からの重点封鎖が無かった事も幸いした形となり、宗次は無事にここに到着していた。
「ま、ここから先が問題なんだがな」
　事前にどういったルートを取った上で向かうかはねむるには話していない。
　だからこそ、この先に誰が待ち構えているか、その予想は付けられないのだ。
「とにかく、今は行くしかねーか」
　封鎖の目を盗み、移動しながら宗次は工場内に落ちていた紙袋を拾い、少しだけ細工をする。
　――自分が持っている【本物の金】をケースから紙袋へと移し、何かあった時の為の準備として。

【旧市街地：警察署方面：C3_1】

　封鎖が完了している警察署方面では、警官の出入りが激しく行われていた。
「それじゃ、後は頼む」
　先を急ぐ必要がある刀は、仲間である警官の服を着た捜査官に後を託し、この先の港へと向け走っていく。
　これより後に警察署へと乗り込む可能性がある巴への警戒を、捜査官とこの場に居る警官に伝えた後に。
「……誰が来るかなぁ。出来ればおじさんがこっちを通ってくれると嬉しいんだけど」
　一つだけ捜査官は呟き、そのまま他の警官に混ざる形で封鎖線に加わっていた。

【旧市街地：警察署方面：C3_2】

　港を目指す大半がこちらを通る事を選択した事で、警察署方面は一際大きく騒動が起きる事となる。
　その中で、誰よりも早くここを通り抜けられたのは――

「浅黄 苗と言います。これですか？ ……妹が忘れてしまって、届けに行く所なんです」
　肩に背負ったショルダーバックを開き、バック一杯に詰められたタオルとジャージを警官へと中身を見せる。
　――中に入っているアタッシュケースを見せる事なく。
「妹は船で待っていますから、通してもらってもいいですか？」
　見た目は中学生、本来の髪型も変え、苗と名乗った少女は呟くように言葉を口にする。
　バックの中身を確認した上で、アタッシュケースも所持していない事が幸いし、警官は苗――夏朝を通してしまっていた。
　一つだけ会釈を返し、夏朝はまっすぐに――駅へと向かう主要道路方面へと向かい歩き出していた。

　次に続く形で封鎖地点を通るのは、トラックに便乗する形でここまで乗り継いできたタルトであった。
「……やるなら、一つしかないよね」
　既にろっこんの効果は切れた為に、タルトは人型に戻っている。
　荷台に乗っているトラックは、検問の順番待ちに捕まっており、このまま行けば間違いなくタルトは捕まる。
　それを逃れる手段として――タルトは以前の合流地点で行った手をもう一度行おうとしていたのだ。

　――検問の列は徐々に縮まり、タルトが潜むトラックの番になる。
「今――！」
　素早くケースを持ち、トラックから飛び降りながら、地面に足を下ろす。
　逃げる為の一手、目印となるケースをその場に置き、タルトは自分を見つけた警官達から逃れるように走る。
　数名の警官はアタッシュケースに駆け寄り、一部の警官のみがタルトを追うが――警官はタルトに追いつけず見失ってしまっていた。
　目指す先は港。タルトは誰よりも早く、脱出の為の船に向かい走り出していた。

【旧市街地：警察署方面：C3_3】

　最後に検問を通るのは、由貴奈と立樹である。
　自転車での強行突破や通過するトラックに隠れる事も一度は考えたが、それらは目の前で行われたタルトの行動でほぼ不可能になっていた。
「少し遅かったねぇ……これが上手く行ってくれればいいんだけど」
　陽動として、駄菓子屋で買った水風船はあるにはあるが、このまま行けば逃げ切れる確証は少ない。
　――その為に、立樹は一つの提案を由貴奈に行っていた。
「俺が居れば、多少は疑いは晴れると思うよ」
　逃走時に来ていたウェイターの服装は、ここに来てようやくその意味を持つ。
　提案は店の買出し、その為にここを通る必要がある事と、駄菓子屋で買った際に二人で分けた紙袋を理由に通ると言った事であった。

　――待つ事数分、人が通る側に敷かれた検問に二人は到着する。
「えぇ、バーで使う物の買出しです。中身ですか？ もちろん、確認してください」
　警官に止められ、手に持った紙袋を立樹と由貴奈は見せる。
「アタッシュケースですか？ こちらは入りきらないものを入れてるんです」
　紙袋の中身は問題ないと確認した後、ケースの中身を見せるようにと警官は二人に問う。
「中身はほとんど一緒ですよ？ ほら、他の人も待っていますし、確認する必要は余りないと思いますけれど」
　にこやかに笑顔を向けながら、立樹は警官に答える。
　――自覚は無い。だが、これが立樹が持つろっこんの発動条件を満たしていた。
　警官の意志は、その笑顔で一時的ながら安心するように、幸せに包まれていく。

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？？？：――檜山 立樹ノロッコン使用確認。残回数０――

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「ありがとうございます。じゃあ行こうか」
　ここまで一切喋る事無く、立樹の後ろに控えていた由貴奈を促し、そのまま警官の隣を通り過ぎる。
「……すごいですねぇ、たつきさん」
「偶々上手くいっただけだよ。でも、文貴さんもここを抜けるのには苦労しそうだね」
　立樹は港に文貴が向かっていると信じているが、逆に由貴奈は文貴への信頼は揺らいでいる。
「……来ても信じない方がよさそうですよぉ？ それに――」
　由貴奈が言いかけた途中で、検問から一人の警官がこちらに向かう姿が見える。
「すいません。一つ確認を忘れていましたので」
「はい、なんでしょうか？」
　出来る限り平静を装いながら、立樹がもう一度説得する為に走ってくる警官に近づいていく。
　――しかし、それに気づいたのは由貴奈の方が早かった。
帽子の下に見えた、歪に笑うねむるの姿に。
「ダメ、たつきさん！」
「え――」
　立樹もその事に気づくが、ねむるが差し出した手を避けきれずに額に触れられる。
「あぁ、やっぱり疑われてたんだ、僕」
「あ……逃げ、て……み、ぶちゃん……」
　ろっこんの発動条件は満たされ、ゆっくりと立樹は倒れ、静かに寝息を立てる。
　見捨てる形にはなるが――それでも立樹の意志に従い、離れた位置に居た由貴奈は逃げる事を選択していた。
「残念、あっちは御剣君に任せようか」
　眠る立樹からアタッシュケースを奪い、それを近くの警官に渡す。
　――その直後、反対側から聞こえてきた声に、ねむるの意識は向けられていた。

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？？？：――日暮 ねむるノロッコン使用確認。残回数０――

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【旧市街地：港側脱出地点:D3】

　誰よりも先にここに姿を見せたタルトは、目の前にある船へと目を向ける。
　――本土と寝子島を往復する連絡船。
　船自体は決して大きくはないが、それでもより多くの人を運ぶ為の船として運用されている物であった。
「警察とかいないし……ってことは僕が一番かな？」
　アタッシュケースは無いが、手元には船の乗るための乗船許可証がある。
　タルトは船に近づき、乗員にチケットを見せ、そのまま船に乗り込んでいく。
　――だが、船の欄干に手を掛け、足を船につけた時点でタルトの頭には通達の様な声が響いていた。

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？？？：響 タルトノ逃走成功ヲ確認

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　告げられた言葉と共に、タルトはそのまま世界から消えるように姿そのものを消失させる。
　――マイスターと名乗る、その声と共に。

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Round5 End▼次ラウンド開始地点▼
　【Ａ１】八神 修　雨寺 凛
　【Ａ２】骨削 瓢
　【Ｂ１】神無月 文貴（捜査官）
　【Ｂ２】追分 義一　志波 武道　小山内 海（捜査官）
　【Ｃ２】恵御納 夏朝
　【Ｃ３】桜崎 巴　檜山 立樹　日暮 ねむる（捜査官）
　【Ｄ３】壬生 由貴奈　御剣 刀（捜査官）　響 タルト（逃走成功）
　【Ｄ４】本田 宗次

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Next Round【AM11:50】―→