●４年目

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１月
【元旦】
　2歳になった夏朝は、母の生まれ育ったドイツへ新年の挨拶をしにいくことになった。
　お爺ちゃんとお祖母ちゃんに、たどたどしいドイツ語で挨拶をして、なかなか会えない分おもいっきり遊んでもらうのだった。

【卒論】
　鬼河内 萌の卒論が木天蓼大学内で話題となっていた。
　テーマは「真のカレーライス」。
　発表時の「真のカレーライスは有りまぁす！」言葉が、大学中で有名となる。
　そして萌の協力のもと、木天蓼大学の学食に名物『真のカレーライス』が生まれた。

真のカレーライス評価：★★★★★

２月
【オーディション】
　相変わらず実家の手伝いをしていた城山 水樹のもとに、一本の電話がかかってくる。
「水樹ちゃん？　今度の土曜日空いてる？　ABCスタジオに来てほしんだ。あ、俺。この間水樹ちゃんが飛び入り参加した映画を撮ってた監督ね。たぶん後で事務所からも電話かかってくると思うから。んじゃよろしくね」
　何の話やらと思っていたら、本当に事務所から電話がかかってきた。
　どうやら、新作映画のヒロインを決めるオーディションがあるらしい。
　そんなの興味がないと突っぱねていたけれど、こんな水樹をオーディションに出す代わりに、事務所の新人を使ってもらう約束をしたらしい。
　ふざけるなと言いたくなるのをぐっとこらえ、水樹は気の進まないままオーディションを受けに行く。

　結果は――審査委員満場一致の合格。

３月
【卒業式】
「これより寝子島高校、第×期生卒業証書授与式をはじめます。まずは――」

『卒業者進路一覧』
御巫 時子…木天蓼大学薬学部
宮祀 智瑜…木天蓼大学商学部
綾辻 綾花…木天蓼大学文学部
大天使 天吏…北海道大学獣医学部／野鳥の会に入会
桃原 空音…木天蓼大学芸術学部
邪衣 士…木天蓼大学経済学部
御剣 刀…木天蓼大学体育学部
橘 千歳…楽習院大学法学部
常闇 月…現時点未定
小山内 海…女子芸術大学
本条 小萩…マルチアイドル
野々 ののこ…現時点未定
七夜 あおい…寝子島保育専門学校

『結びの言葉』
　桐島 義弘先生は、クラス全員に手紙を配った。
　そこに書かれていたのは、桐島先生らしい真面目な、けれど1人1人違う叱咤激励が添えられていたようだ。
　その行為が生徒達の胸を打ち、涙を流すものもいた。
　宮祀 智瑜も、その1人だった。
　智瑜は涙を流しながら――覚悟を決める。
　その場で、先生へのお礼の手紙を書き上げた。
　そして結びの言葉として、自分の気持ちを認める。

『もし私の気持ちに応えてくれるのなら、卒業式の後、進路指導室で待っていてください』
「わかった。待っている」
「……え？」

　進路指導室へ行くよりも早く、智瑜はその場で返事を貰うことになる。
　
『別れの言葉』
　卒業式を終えて、御巫 時子は理科室で五十嵐 尚輝先生を待っていた。
　伝えるべきことは、もう決まっている。
「ありがとうございました」
「……あなたのことが好きです」
　気持ちが高ぶる。頬が熱くなる。
　五十嵐先生は時子の熱がもっとも高まったときにやってきた。
　震える声で気持ちを伝えた。
「時子さんは困った人です。……君のせいで、最近実験に身が入らないんですよ」
　時子への返事は――小鳥が木の実をついばむような額への口付けだった。
「……責任、取ってください」
「……はい！」

『おめでとう』
　常闇 月が卒業式を終えて正門に向かうと、そこでは卒業を惜しみ、写真を撮り合う生徒達の姿があった。
　その輪の邪魔をしないように月は人の隙間を縫って、出口を目指す。
「よ！」
「九条さん？」
「卒業おめでと。……良かったら、お祝いにデートしてくれない？」
「はい」
　×　×　×
　ゲームセンターに行き、服を見て、のんびり2人の時間を楽しんだ後、新鮮な魚料理を振る舞ってくれる小料理屋へ向かった。
「進路、まだ悩んでるの？」
「……今まで、何をしたいと考えたことがなかったので……」
「そっか……。まぁ俺も似たようなもんだから人のことは言えないけどな。俺はとりあえず就職しとくかって思って、観光協会入ったけど、これはこれで楽しいぜ。とりあえずでどこかに入ってもいいし、バイトしながらゆっくり考えるのもいいかもな」
「……とりあえず」
「難しいかもな。ま、焦らなくてもいいさ。月ちゃんなりに、ゆっくり頑張ればいいよ。とりあえず、あーん」
「……あ、あーん」

４月
【卯月は君の夢】
　春の新アニメ『卯月は君の夢』。クラシック音楽をテーマに人間模様を描いた作品だ。
　その主役と主題歌に白浜 渚が抜擢された。
　EDテーマは海外の有名楽団によるオーケストラ演奏。
　その楽団に所属する大学時代の勧めで篠崎 響也も演奏に参加することとなった。

【新生活】
『新入社員ッ！』
　有名食品メーカーのカレー開発部門に配属された鬼河内 萌。
　仕事に慣れるまでは、少し時間が掛かりそう……。

５月
【GW】
『卒業生のつとめ』
　卒業をしても綾辻 綾花は寝子島高校図書館の曝書のお手伝いに来ていた。
　早川 珪先生に会いたくて　

『雨に降られて』
　GWということで橘 千歳、御剣 刀、小山内 海で高校時代の時のように集まることになった。
　一足早く帰ってきた千歳は刀と共に寝子島神社の境内で、鍛錬に励んでいた。
　あの日の――高校時代に戻ったかのように。
「刀くん、少し、背が伸びた？」
「いや……筋肉がついたのかもな」
　そんな会話をして海の到着を待っていると――次第に雲行きが怪しくなってくる。
　危ぶんでいる間に、雨が振り出し、激しくなり、濡れ鼠になってしまう。
「一旦、雨宿りしよう」
　×　×　×
「え？」
　橘 千歳は思わず声に出して驚いた。
「どうしたんだ？」
「小山内さんが、雨の影響で今日中には帰ってこれないって……」
「そう、なのか」



「……雨、止まないわね」
「……そう、だな」
　それ以上の会話はない。
　けれど高校時代とは少し違う刀の男の香りを。千歳の女の香りを。
　互いに意識していたのは間違いない。

６月
【マルチアイドル】
『活躍の幅』
　高校を卒業しても変わらず。いやより一層マルチアイドルとして本条 小萩は活躍していた。
　６月は、まさかの海外公演！
　著名な美術館のイベントに、小萩は参加することになったのだった。

『鮮やかな世界』
　3歳になってひと月の嘉島 和穂はテレビの『本条 小萩』特集にメロメロだった。
　子どもを夢中にさせる色使いが、小萩の人気の秘訣なのかもしれなかった。

７月　
【七夕】
『海の向こうで』
　ヨーロッパ圏では、日本のような七夕のお祭りはあまり見かけられない。
『琴座オルフェウス』の悲劇の物語はあるが、それほど大きなイベントでもなかった。
　霧生 深雪はいつもと変わらぬ大学生活を送っていた。今日が七夕だと気が付くこともなく……。
「久しぶり」
　視線の先で芽森 菜々緒の双眸が弧を描く。キラキラと陽の光を弾き、まばゆいばかりの笑みだった。
　どうしてここに？
　そんなこと問いかけずともわかる。同じ国の大学に来たのだから。
　どうして俺だとわかった？
　……覚えていてくれたんだ。それとも、あんまり変わってないから？
　湧き上がる感情に深雪は飲み込まれていく。
「……大学、こっちだったのね。だったらひと言連絡してくれれば」
　菜々緒は昔と変わらず綺麗だった。いや、更に綺麗になった。
　抜けるような白い肌も髪も変わらず綺麗だが、表情がいくらか柔らかくなった。
　化粧もしているのだろうか、消えてしまいそうな虚ろさはどこにもない。
　深雪の胸が震える。
「好きだ」
「……え？」
「ずっと……あの嵐の日からずっと、俺は菜々緒が好きなんだ」
　言ってからハッとする。
　一世一代の告白を、再開の衝撃で、勢いでしてしまった。
　後悔はないが、同時にまだ覚悟もできていない。
　羞恥心やらがこみ上げてきて、深雪の白い肌はすっかり朱色に染まっていた。
「……だったら、言ってくれればよかったのに」
「へ？」
　今度は深雪が驚く番だ。
「私も好きよ。その綺麗な目も。素直じゃないところも」
「…………」
「連絡先、教えてね」
「あ、ああ」

８月
【明日も夏休み】
『親友と』
　綾辻 綾花は専門学校に進学した七夜 あおいと久々にデート。
　2人でホテルの期間限定ケーキヴァイキングへ。
　綾花はフルーツたっぷりのタルトを２つ、あおいは全種類制覇を目指して、最後の１個で挫折。

『家族と』
　北海道大学に進学した大天使 天吏は、順調に大学生活を送っていた。
　夏休みには家族が天吏の住むアパートに遊びに来た。もちろん、あちこちの観光も兼ねて。
「ところで、天吏。どうして獣医学部に進学したの？」
「今更ね……。鳥専門の獣医になろうと思って」
「鳥専門の？」
「そう。専門医じゃないと対処しきれない病気も治したいから」
「……それは素敵ね」

【撮影】
『伝説の始まり』
「カットぉおお！　NG！　もう一回！」
　撮影現場のでは、もう何十回と監督の怒りに満ちたNG宣言が繰り返されていた。
　NGの原因はおおよそすべて主演の城山 水樹が原因だった。
「あのさ、なんでそんな表情硬いわけ？　もっと力を抜いて、画面のことなんて忘れてさらけ出してよ」
　さらけ出せなど言われて、簡単にさらけ出してしまえば女として終わりだ。と水樹は悪態をつきたくなった。
　そもそも監督からの熱烈なラブコールでしぶしぶ映画に参加したというのに、なぜここまで罵声を浴びせられる羽目になっているのだろう？
「馬鹿野郎！　お前、それでも女かよ！　色気はどこ置いてきた色気は！」
　色気ってなんだよ具体的な指示も出せないのかこのポンコツ監督め！
　喉元まで出かかった怒りをグッと飲み込んで、水樹は唇を噛む。
「もういっそ脱いじまえ！」
「脱ぎません」
「んだと、監督に口答えする気か」
「脱ぎません。でも色気は出します」
　水樹は断固としてそこは譲らない
「わかった。じゃあ走ってこい」
「はいっ！」
　水樹はわけも分からず走らされる。汗だくになって息も上がって、せっかく覚えた長台詞も全部飛んでしまいそうだ。
　なんでこんなことをしなきゃいけないんだ。こんなことなら早く家に帰って古本を売っていたい。
　ボーっと立って、来ない客を待って、そうして時間を過ごしていたい……。
　心臓が破裂しそうなほど走らされた後、休憩もなくすぐ撮影が開始された。

９月
【名門高校】
『期待の奨学生』
　名門中学から内部進学を果たした鳳翔 皐月は、高校に入っても成績を落とすことなく
　そして9月。二学期始業式で来年度の奨学生が発表される。
　学校独自の奨学生は1学年に1人ずつ。
　その奨学生に皐月は選ばれたのだ。
「鳳翔はお家柄にも問題がありませんし、期待してますよ」
　奨学金って、お金がなくて困ってる人のためのものじゃないの？
　鎌首をもたげる疑問を飲み込んで、皐月は微笑む。
「ありがとうございます。ご期待に添えるよう、精一杯努めてまいります」

１１月
【木天蓼大学大学祭】
『縁』
　それぞれ別の大学に進んだ小山内 海、橘 千歳、御剣 刀。
　今日、この日は久々に親友3人が揃った。
「……毎日とても忙しいけど充実した毎日を送っているわ。小山内さんは？」
『おもしろくて、しげきてき』
「……2人共、上手く行ってるみたいでよかった。俺はあまり変わらない毎日だ。鍛錬の時間が増えただけのような」
「なるほどね」

『腐れ縁』
　木天蓼大学で仮装コンテストが開催された。
　うっかり乱入。熊皮を被っていた邪衣 士が仮装キングに。
　桃原 空音ならぬ『変態魔法少女そらりん』が仮装クイーンに選ばれる。
　ここで生まれたキング＆クイーンのカップルは伝統的に本物カップルになることが多いという。
　学部は違えど大学は同じ2人。
　まだまだ縁は続きそう。

『卒業制作』
　桜 月は卒業制作として、『サクラツキ・コレクション』を作成した。
　衣装のデザイン・制作はもちろん、パンフレットやモデルの手配まで行った。
　そして、大学祭の場を借りて、発表することとなった。
　テーマは春夏秋冬。ひととせ。

　春……桜色のロリータ調のワンピースドレスや桜の精と見紛うような華やかなドレスを。
　夏……涼し気な浴衣やさわやかなマーメイドをイメージしたワンピースタイプの水着を。
　秋……様々なデザインの日傘に合わせた、着物、ドレス、普段着を。
　冬……和洋様々な純白の衣装を。

　メインモデルは、月の家でメイドとして働いている北条 冬華が努めた。
　サブとしてモデル志望の何名かも使ったが、注目を集めたのはやはり冬華の方だった。



　最後、挨拶のために登壇した月には惜しみない拍手が送られる。
　このコレクションを観に来ていたとある有名ファッションデザイナーの紹介で、月はアメリカ留学が決定した。

１２月
【ボイスアクターアワード】
『W受賞』
　白浜 渚が声優業と音楽大学での学業という二足の草鞋を履き始めて、今年で4年目。
　あらゆる稽古やお仕事のせいで毎日が目まぐるしく、精神的に追い詰められたこともあった。
　しかしそれも乗り越え、来年の春には無事大学卒業を迎えることになりそうだ。
　その上、彼女の努力は思わぬ形で認められることとなった。

「第×回ボイスアクターアワードの『新人女優賞』は――白浜 渚！」
「第×回ボイスアクターアワードの『歌唱賞』は――白浜 渚！」

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５年目に進みます。
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