●２年目

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１月
【病院】
『現実』
　矢萩 咲は白いベッドの上で目を覚ました。
「ああ、目が覚めましたか。疲れていたんですね。……ご安心ください、2人共、大きな問題はありませんよ」
「2人共……？」
　まさか、アイツのことだろうか。咲は身体を強ばらせる。
「もしかしてご存知ありませんでしたか……？　あなた、妊娠してますよ」
　咲の顔は病院のシーツよりもさらに白くなっていく。
　……間違いなく、あの男の子。世界で一番憎いあの男の……。
　私は……この子を……どうしたら……。

２月
【習慣】
『手作り弁当』
　御巫 時子は、時々五十嵐 尚輝先生に手作りのお弁当を届けていた。
　そうでもなければ、五十嵐先生は昼休みになったことも気付かずに、食べるのも忘れて実験ばかりしているから。
　今日のお弁当は、刻みネギ入りのだし巻き卵、鳥肉の野菜巻き、手作りがんもの煮物、生姜ご飯、それから保温機能付のジャーに入れたけんちん汁。
　野菜が苦手な先生でも野菜を摂れるように工夫した、愛情たっぷりのお弁当。
　その愛情は、まだ伝えることができないけれど。
　せめて、この形だけでも……。

３月
【卒業式】
『見送り』
　卒業式が終わると同時に芽森 菜々緒は留学国へ渡航することが決まっていた。
　嵐の夜から徐々に霧生 深雪との距離は近づいていたが――最後のときまで、深雪は思いを口にはしなかった。
「頑張れよ」
　空を見上げ深雪はつぶやく。
　――桜はまだ咲いていなかった。

『祝辞・答辞』
　八神 修は卒業生代表として答辞を読み上げた。
　卒業式を終えて、まだ枯れ木が目立つ桜並木の下を恋人の七夜 あおいと共に歩く。
「……これから、しばらく会えなくなるね」
「そうだな」
　修は見事合格した東京大学で医学を６年間学び、あおいは地元の専門学校で看護師になるため３年間学ぶことになる。
「さすが修くん。一発合格しちゃったね」
「あおいも、よくこの短期間で頑張ったな……なあ、あおい」
「何？」
「明日、デートをしようか」
　一瞬考えるように目を伏せるあおい。
「……運転手さんはなしにしてくれる？」
「ああ、わかった」

４月
【新級進学】
『八百屋の看板娘』


「いらっしゃいませー」

　新しい春がやってきても宮祀 智瑜は変わらない。
　祖父母が営む宮祀青果店を一所懸命に手伝っていた。
「智瑜おねーちゃん、こんにちは！」
　声を掛けてきたのは甘 喜好。去年、とある事件をきっかけに知り合った小学生の男の子だった。
「こんにちは。今からちよちゃんのところ？」
「ううん。ちよちゃんは今日は試験退院でお店に来てくれるんだ」
「だから、そんなに張り切ってるんだね」
「は、はりきってなんてないよ！」
　喜好は顔を真赤にして走り去っていく。
　その姿を微笑ましく思いながら、智瑜は店番に精を出す。

５月
【お誕生日記念！】
　１歳のお誕生日の記念に家族皆で写真スタジオで写真を撮ってもらうことに。
　本格的なカメラやフラッシュに驚いた嘉島 和穂はえんえん大声で泣いてしまう。
　大変だったけど、いい思い出ね。と後日和穂の母は語る。

６月
【梅雨の図書館】
『ひと休み』
　委員会は２年連続図書委員会の綾辻 綾花。



　チラリと隣を見れば、担当の早川 珪先生。
　その奥の窓にはキラキラと輝く雨粒と雨上がりの淡い虹。
「先生……」
「あ、本当だ。……綺麗だね」
「そう、ですね」
　そんな毎日のささやかなやり取りを、とても嬉しく思う綾花だった。

『水乞い鳥』
　大天使 天吏は今日も図書館で本を読んでいた。
　眺めているのは野鳥図鑑。知っていることばかりが書いてあるけれど、眺めていて退屈はしない。
　ふと開いたページには、特徴的な嘴を持った赤い鳥の姿が。
「……アカショウビン」
　彼らは梅雨の時期に繁殖をする種類。
　窓を覗けばもう雨は上がっている。
「探しに行こう」
　彼らは次に雨が降るころを、きっと教えてくれるはず。

７月
【祝＊お誕生日会】
　恵御納 夏朝は無事に１歳の誕生日を迎える。
　張り切ってお母さんは夏朝の為に１歳児用のケーキを作ってくれた。
「う～、あ～だ～！」
「夏朝！？」
　感動したのか夏朝ちゃん。ケーキに顔からダイブ！
　顔中クリームまみれになりながら、美味しくケーキを頂きます。

【新曲】
『再会』
　新曲のPV撮影のため海外に訪れた最上 るるか。
　そこで、高校時代から片思いしている相手・篠崎 響也と再会を果たす。
　――恋と意識することのなかった響也も、大人になったるるかを、変わらぬ可愛らしさを持つるるかを意識することとなる。

【新アニメ！】
『真夏のセイレーン』
　白浜 渚が声優として活動をはじめて1年が経った。
　最初のきっかけと同じくゲームの仕事をこなすことが多い中、ある日突然新アニメに出演することが決まった。
　しかも初めてのアニメ作品だというのに、与えられたキャラが主人公にしてヒロイン。
　普通ならまずあり得ないことだった。
　だが、スポンサーたっての願いということで、この話はトントン拍子に進むことになる。

「まずは泳ぎましょう。話はそれからよ」

　最初につまずいたのは決め台詞の言い方。演出や音響監督の人たちに何度も何度も指導され、ようやくアニメの顔となるセリフをものにした。
　次に、当然といえば当然だが、口パクに合わせることがどうしてもできなかった。
　画面端に表示される秒数に合わせて入り、時間内に言い切る。それだけならばできなくもなかったが、何度やっても絵と声が噛み合わない。
（申し訳ありません……）
　第一話の収録は予定時間を大幅に越えての終了。しかも仕上がった動画を編集に戻して、口パクを合わせ直してもらうという形に落ち着いての終了となった。
（私……ごめんなさいッ）
　役の大きさやら周りに見知らぬ人が沢山いるやらと掛かる重圧が何時もの仕事とは桁違い。
　そのプレッシャーも彼女をますます追い込んでいく。

　――渚は体調不良を起こすようになっていった。

　アニメ第一話の反応は、まずまず。期待の新人声優に、ときめく視聴者は多いようだ。

８月
【夏アニメ！】
『真夏のセイレーン』
　1ヶ月の放送を終えて、真夏のセイレーンはうなぎ上りの人気を見せる。
　独創的なシナリオ。演出。音楽。それから絵。
　あらゆる要素が好評化で、DVD第一巻の予約も予定の1.5倍は取れているそうだ。
　その中で、渚の初々しい演技に魅せられたもの。渚の声に惚れたものもいた。
　だがそんな応援の声さえも、渚にとっては大きなプレッシャーとなる。
（……皆さんの期待に応えないと）
（その為にも、もっと……演技を上手くならなければ。技術を磨かなければ……！）
　向上心さえも、渚を追い詰めていく。

　第6話の収録を前にして、渚は声が出なくなってしまった。

　運良く、第6話は脇役にスポットが当たる回。渚のキャラクターが登場するシーンをカットして、一部シーンを追加し、それでも足りない分はCMを多く流すことになった。
　けれどこんな対応を次の話ではできない。
　……当然のごとく、渚の降板が検討されるようになる。
　もし、このような形で仕事に穴を開ければ、もう2度とアニメの仕事はできないだろう。
　それどころか、声優自体続けることが困難になる……。
　焦りはますます渚を苦しめる。
　そんなときだった。
「渚ちゃん、無理しないで」
　声を掛けてくれたのは、事務所の大先輩だった。
「……頑張りすぎなくてもいい。貴方はすごく頑張り屋さんだから、もうちょっと肩の力を抜いてご覧？」
　大先輩だけではない。スタッフや共演者――皆、渚を応援してくれた。支えてくれていた。
「……経験がないって不安だよね。でもそれを支えるのって私達の仕事だからさ」
「もっと頼ってよ、ね！」
　多くの人に支えられて――
「ありが、とう……ございます……」
　渚は声を取り戻した。

【夏祭り】
『百発百中』
　戌井 創は射的ゲームで一等を見事命中させた！
　商品は前々から欲しかったスニーカー。やったね！

『こんなはずじゃなかったけど』
　常闇 月は友人の護衛で夏祭りに足を運んでいた。
　……浴衣なんて着るつもりはなかったけれど、渋々切る羽目になった。
　浴衣は動きにくいから、護衛には向かないというのに。
　不満を抱いて祭りを回っていると、携帯電話が小さく振動した。



　差出人：九条 翔
　件名：RE:RE:RE:RE:ありがとうございます。
　本文：

　チッス(^O^)／
　この間はありがとうな。

　月ちゃんはさすが運動神経いいよな。
　今度は海でも行こうぜ。
　ビーチバレーじゃ負けないぜ！(^^)v

　それより今日って暇か？
　旧市街で祭りがあるみたいなんだけどさ…
　一緒に回らない？



「あれ、月ちゃん？」
　メールを読み終えると同時に声を掛けられる。
「なんだ、来てたんだね。……浴衣、すごく似合ってる」
　なんで誘ってくれなかったの。なんて彼は言わない。
「よかったら、一緒に回らない？」
　返事をするよりも早く友人に背中を押される。
「んじゃ、とりあえず射的に……」
　こんなはずじゃなかったけど……、そう思いながらとても楽しい１日を過ごす。

９月　
【アニメ最終回】
『真夏のセイレーン』
　最後の収録を終えて、主役の渚に花束が贈られた。
　渚から共演者、スタッフ全員に感謝の手紙が贈られた。

『私が、今この場に立っていられるのはすべて皆さんのお陰です。
　本当にありがとうございます』

　もう声は出るはずなのに、涙のせいで声にならなかった。

　アニメは視聴率、グッズの売上共に上々。
　いつか第二期をやろうとスタッフたちは笑い合い、真夏のセイレーンは幕を閉じたのだった。

【摩訶不思議スイーツパーティー！】



シーサイドタウン駅が全部ケーキやお菓子に大変身！！
駅全体はチーズケーキや生クリームのケーキに！
石畳はスポンジ、板チョコ、クッキーに！
噴水はマシュマロがぷかぷか浮かぶチョコレートファウンテンに！

食べても食べてもなくならない。幸せな神魂の悪戯をご堪能あれ……。

『時子は見た！』
　駅がお菓子化する数分前に遡る。
　友人に誘われ駅前のケーキ屋さんに向かっていた御巫 時子は見てしまった。
　五十嵐 尚輝先生の頭から、鳥が出てくる瞬間を。
　しかも先生本人は気が付いていない。
　その数分後、駅周辺がお菓子化し、ケーキ屋に行くまでもなくなった。

『がーるずたいむ！』
　どうしてこんなことになってるかはさっぱりわからなかったけれど、とにかくケーキが食べ放題！
「おっきいケーキ、じぶんでも作れるかなぁ？」
　聖籠 あゆかは目をキラキラと輝かせて、ケーキの駅に飛び込んだ。
　あゆかのすぐ後に添木 牡丹と鬼崎 のばらの姉妹が続く。（養子に出されたものの、のばらは事あるごとに牡丹に会いに来ていたのだ）
「のばら……これって、きたなくないの？」
「えっと……どうでしょう？　いま、確認してみます」
「ぜんぜん、きたなくないよ。とってもおいしい！」
　あゆかが笑顔で2人にケーキを差し出した。ケーキが取り持つ仲がある。幼い少女達はあっという間に仲良くなる。

『お菓子な駅』
　小山内 海はケーキの苺をつまみながら、目の前の不思議な光景をスケッチブックに納めていく。
「これって何かのイベントなのかしら？」
　その絵を眺めながら橘 千歳は不思議そうに首を傾げた。
『おいしいよ』
　筆談用のスケッチブックにそう書いてから、千歳にケーキをあーんする。
　千歳は一瞬ためらうも、海のケーキを受け入れた。
「……確かにそうね」
　ちょっとだけ気恥ずかしい千歳。こっそり千歳の横顔をスケッチする海。



「甘いものはあんまり……」
　引き気味の御剣 刀を置いて、女子2人は降って湧いたスイーツタイムを堪能した。

『ハーイ！　テンション』
「ヤベェエエ！　これ超うめえええええ！！！」
　誰よりもハイテンションでケーキを貪るのは野菜原 ユウ。耳を覆っているのは密着性の高いヘッドホン。
　音楽でテンションが変わるろっこんを持っている彼。きっと激しいのを聞いてるんだ。
「負けないよー！」
　そのテンションに負けじと頑張る鬼河内 萌。
　頬をふっくらさせて詰め込む仕草は、過激なリス。
「ほっぺにクリームついてるぞ！」
　ユウは舌で萌の頬についたクリームをすくいとる。
「……！」
　萌は顔を真赤にしながら、それを誤魔化すためにますますケーキを頬に詰め込むのだった。

チョコレートケーキ：★★★★☆
チーズケーキ：★★★☆☆
その他：★★★☆☆

１０月
【芸術の秋】
『優秀賞』
　桜 月が授業の一環で応募したデザインが、なんとプロやセミプロを押しのけて優秀賞を取る。
　一躍、若き天才デザイナーとして、注目されることとなった。

『似顔絵』
　月居 歩と恋人の芽森 菜々緒。
　同じ芸大に通う2人はお互いの似顔絵を描き合うことになった。
　見つめ合う視線は真剣そのもの。
　けれど――いつしか眼差しが熱を帯びてきて、その熱はそのまま絵に映し出されるのだった。

『迷いカラス』
　木々の生い茂る九夜山の落ち葉の絨毯を踏みしめ、大天使 天吏はバードウォッチングを楽しんでいた。
　あまりに夢中になって、ついつい奥深くまで足を踏み入れてしまう。
　樹齢云百年、云千年というところだろうか周辺の木々を慈しむように屹立する一本の大木の梢に、艶やかな黒羽根を持った1羽のカラスの姿があった。
「綺麗なカラス……」
　町中で見かけるカラスたちとは比べ物にならない。
　そのあまりの美しさに思わず天吏は見惚れてしまう。
「あらぁ、何かお探しでぇ～？」
「……カラスさんが喋った？」
　流石寝子島、不思議なことだらけだ。
「ふふぅ～ん、喋ったくらいで驚かれたら困っちゃうわ～」
「……他には何が出来るんですか？」
「そうね～……じゃ～あ」
　その綺麗なカラスは羽で嘴を覆って高笑いをしてから、飛び上がる。
　×　×　×
　カラスの大群を率いたり、不思議な現象を起こしたり、美しいカラスの一挙一動に天吏は心を奪われる。
「……明日も、会いに来ていい？」
「ええどうぞぉ？　いるかどうかはわからないけどねぇ～」
「……私は天吏」
「ふぅ～ん？　天吏ちゃんねぇ～」
　名前を教えてはくれなかった。そして結局約束もしてくれなかった。
　その曖昧な態度の通り、翌日そのカラスは天吏の目の前に現れることはなく……しかし、その数週間後、唐突に天吏をからかいに来ることはあった。
（私は、ずっと昔から大好きな鳥さんと友達になってみたいと思っていたから……気まぐれでも、嬉しいです）
　そうして何度か遭遇を繰り返すうちに――
「……私と友達に、なってくれますか？」
「ええ～もちろんよぉ～。ウフフ、天吏ちゃん。私のことはクローネと呼んでねぇ」
　不思議なカラス・クローネと天吏は友達になったのだった。

１１月
【有名私立中学校の文化祭】
　生徒会に所属する鳳翔 皐月は大忙し。
　当日は、誰もが気持ちよく過ごせるようにただ目を配り、気を配ることに集中した。
　楽しむ間もなく、奔走する。

１２月
【大晦日】
『短い時間で……』
　大晦日、大学のカリキュラムの関係で帰省できずにいた篠崎 響也は、講義の休憩時間に男女歌合戦のWEB中継を見ていた。
「次は――今年もやってきました。小悪魔すぎるアイドル『るるか』登場！」
　画面の友人は今日も誰よりも輝いていた。
　それだけ確認して響也は練習に戻っていった。

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３年目に進みます。
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