美味しい実験体験、みんなで実験をしよう！｜リアクション

美味しい実験体験、みんなで実験をしよう！

【陰謀論は、実験と再開の後で……】

　周りがワイワイと実験で騒がしい中、如月庚は真剣に電気パンを調理していた。
　しっかりとメモを取り、あとはそれをレポートにするだけ。必要なことは全部板書されている。
（――楽な授業だ）
　と、ある意味誰もが思う内心である。
　実際に楽ではあるし化学が苦手な生徒にとっても分かりやすい、かつ、多くの生徒にとって面白い。
（これなら得意じゃねぇがなんとかなりそうだ）
　そう思いつつ、１人で実験を続ける庚の背中をちょいちょいっとつつく手があった。
　薄々と嫌な予感がしていたのだろうか、ゆっくりと庚が振り返るとある女子生徒がにやりっと笑った姿で、目の中に飛び込んできた。
　八重崎五郎八である。
　その笑顔は、後にいたずらっ子な弟を見つけた時の姉の顔のようだったと目撃証言が流れるような気がするが、それは置いておいて……。
「やっ！」
　と、五郎八は悪びれない様子で手をひらひらさせている。
「……はぁああぁぁ！？」
　一瞬考えて、背を向けて頭を抱え、また振り返った時のその瞬間の庚の表情は、とっても見ものであったという。
「……ひ、久しぶりすね…八重崎、センパイ」
　声が硬い、顔がひきつっている、ちなみに、そんな庚の姿に周りはざわついている。
　しかし、そんなことはお構いなしの五郎八である。
「むー、庚君なんか他人行儀……ちっちゃい頃はあんなにお姉ちゃんお姉ちゃんって慕ってくれたのに」
　と、わざとらしく拗ねたように言う五郎八に、庚は内心の焦りが止まらない。
（ちょっと待てなんでいろは姉ちゃんがここにいるんだよ！？　俺は何も聞いてないぞ！）
　という庚の内心を知ってか知らずか、五郎八はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「い、いや……それは。だから、そう、なんだよ」
　しどろもどろの庚。
「あ、そうだ。とりあえず、お姉ちゃんって呼んでみようか！」
　パンッと手を打ち、思いついたように言う五郎八。止まらない。止まりません。
「……はぁああぁぁ！？」
　対し、この衆人環視のような環境でそれをやらせるのかと焦る庚。
「……庚君、呼んでくれないの？」
　表情が拗ねたそれに代わる。くるくると変わる表情は大変魅力的である。
「……よろしく……姉ちゃん」
　小声で言う庚。その瞬間、ざわっ！　と周囲に波が走る。
　しかし、五郎八はぱっと笑顔を浮かべる。
「……ん、……宜しくね、庚君。こうして同じ高校に通うのも何かの縁だもんね」
「……あぁ」
　こうして、従姉弟同士の再開は果たされたのであった。
「で、庚君。それいいのかな？」
　そう言って、五郎八が電気パンを指さす。
「……しまった」
　言ってしまえば焼き過ぎな状態であった。
「ん、お姉ちゃんに任せなさい！」
　しかし、五郎八が自分の実験器具を置きつつ、助けに入る。
　てきぱきと、電気パンが……なんとかなっていく。焦げた部分は切り取り、焼きすぎた部分とひっくり返して均一に焼いて聞く。もはやただの料理と化した化学実験である。
「手慣れてんな、姉ちゃん……これ……過程は見てりゃ分かるがよ……理屈はどーなってんだ」
　そう言う庚に、五郎八はスラスラと答えを返していく。
「炊飯器とか電子レンジで煮物とかシチューとか……あとケーキ、あの辺と原理は同じだからね」
　と言いつつ、電気パンは見事に仕上がっていったのだ……。