寝子島、停電の熱帯夜｜リアクション

寝子島、停電の熱帯夜

【AM0:05　木天蓼大学寝子島キャンパス前】

　ボロボロの布切れをまとい、口端から血ノリを垂らし、手にはチェーンソー。肝試しの驚かし役としてゾンビに扮した浅沼柳司は、参加者が途切れた隙を見てドライアイスを撒いていた。ほぼ月明かりだけが頼りの大通りに白もやが立ちこめ、おどろおどろしい雰囲気に拍車がかかる。
（待ってる身としてはクーラー代わりや）
　さっき通った参加者を追いかけ回したせいで汗でぐっしょりだ。
「こんなもんでええやろ」
　ひとしきりドライアイスを撒くと小休止。道路の脇に座り込もうとするが……
「うわあ！」
　電柱の影でひっそりたたずむ女性を発見し、尻もちを付く。
「ひ、お化け！？」
　ドライアイスのせいで足があるかどうか確認できない。二酸化炭素を過剰に吸い込み息苦しくなり、さらに気が動転しかけたが、
「あっ、前にセクハラした人じゃないですか！」
　という極めて人間的な言葉が出てきたのでホッとする。
「あーあのときのおっぱ……あ、いや、あのときは、セクハラする気なかったんや！」
　豊満なバストが目立つ本条小萩。柳司とは少々因縁の仲である。
「そんな格好で何しているんですか？　まさか暗いのを利用してまたえっちなことを！？」
「ちゃうわ！」
　ゾンビから鋭いツッコミが飛ぶ。

「なるほど、肝試しですか！」
　停電のせいで趣味のマンガ作成もできず暇をしていた小萩、何の目的もなくぶらぶらしていた。
「面白そうですね、私も手伝いますよ！」
　目標ができると俄然目が輝きだす。
「驚かす側が多いほど皆楽しんでくれるからな。頼むわ」
「小萩の魅力が詰まった恐怖を届けます！」
　そう言って走り出していく。
「どこ行くんや！？」
「準備があるので、一旦帰ります！」
「そうか、暗いから転ぶなや！」
　見送った直後、新たな参加者がこちらへ歩いてくるのが見え、慌てて隠れた。