寝子島、停電の熱帯夜｜リアクション

寝子島、停電の熱帯夜

【AM1:00　n.k.FM】

　時刻は深夜１時を過ぎました。寝子島で行われている電気工事は順調に進められているようです。予告通り３時には明かりが戻ってくるとのこと。だいぶ電気が恋しくなってきましたね。ていうかスタジオは暑くて蒸し風呂です。

　n.k.FMではまだまだ曲のリクエストや停電の楽しみ方を募集しています。あの曲を流してほしい、肝試しのご感想、謎の飛行物体の目撃情報などなど、なんでもお気軽にお寄せください。メールアドレスは……

【AM1:03　シーサイドタウン上空】

「はは、謎の飛行物体だってよ。この熱帯夜にUFOでも飛んでるのか？」
　佐々藤寿は得意気に鼻をこすり、広がる景色を見下ろす。暗く眠る寝子島、ところどころに懐中電灯や自家発電の明かりが見える。南端に見えるのは灯台の光だろうか。さらに海の向こうには夜行船。空は言うまでもなく満天の星。遠くで動くあれは、きっと飛行機。それとも、ラジオで散々話題になっているUFO？
「こんな真っ暗な上空で聞くラジオってのも悪くねぇ」
　藤寿、ろっこん「箒ライダー」を使って箒にまたがり——正確には箒の上で器用にあぐらをかき——寝子島の空を独占中。柄にはラジオがぶらさがっている。
「あとは黒猫がいれば完璧なんだがな……」
　いや、それはさすがにまずい。版権的な意味で。
「それにしてもあちぃな」
　上空は比較的涼しいかと思いきや、そうでもなかった。小型の扇風機でも持ってくればよかった、などと後悔の念。
「はっ、そうか！」
　周囲に人のいないことをいいことに、大声で独り言をわめく。
　ラジオを回収すると、
「よっと」
　箒の上にスケボー乗り。
「スピード上げりゃもっと涼しくなるぞー！」
　我ながら名案だ。強く念じ、寝子島の空を爽快に滑っていく。
「こりゃあいいや！　いやっほーぅ！」
　暗いから人の目につかないという開放的な気持ちのせいか、箒はみるみる加速していく。
「おっとあぶね！」
　危うく高層マンションにぶつかりそうになり、急上昇。
「ん」
　屋上に誰かいたような気がした。見られてしまっただろうか。
「まあ、大丈夫だろ」
　細かいことは気にしない。だって特別な夜なのだから。

　……っと、あれ。

　無理やり上昇させた反動か、箒はトップスピードのまま下降している。
「ちょ……」
　シーサイドタウンの街並が一瞬で近づいてくる。
「やばい。暗くてなんも見えねぇ！」
　慌てて速度を落とすよう念ずる。が、コントロール不能だ。
　せめてコンクリート以外のところに不時着を……！　と思ったところで藤寿の視界は途絶えた。

「い、いててて……」
　気がつくと、藤寿は高い街路樹の上にいた。枝葉がクッションになって軽傷で済んだらしい。枝に引っかかって逆さ宙づり状態だ。
「うわ……箒下に落ちてるし……」
　こんなに暗いと降りることもままならない。
「一晩このままか……」
　幸いラジオはあるから飽きはしない。
　そうだ。携帯もある。
「カッコ悪過ぎだけど、ヘルプのつぶやきだ」
　ねこったーを立ち上げた。