乙女と女王と花百合の森｜リアクション

乙女と女王と花百合の森

◯結末と

　さんさんと照りつける太陽と、湿っぽく生ぬるい風。いつもの夏の昼間だ。
「わ、私はなにを……」
　橘千歳は、小山内海と北条冬華と境内で涼んで、そのまま寝てしまっていたらしい。飛び起きて、その隣のふたりを見て、もう頭を抱えることしか出来なかった。
(ち、千歳ちゃんにどんな顔をすればいいんだろう……)
　海は気がついていたが、起きることが出来ない。冬華も、彼女に同じ。
「全部神魂のせいだわ、そうに違いないわ」
　まったくその通りだと海も思う。
「お互いに忘れることにしましょう……忘れてくれないかしら」
(そ、そうだね、そうしよう)
　だけれど。
(忘れられるかな……)
　三人は恥ずかしくて、不安で、しばらくそうして黙りこくっていた。

　綾辻綾花は思わずうつむいてしまう。
　今までは、ぼんやりとした思考の中であれこれとしていたのだけれど、今は、頭がはっきりとしていて、その記憶があるのだから。
「た、大変だったよね」
　七夜あおいが不器用に笑う。
「綾花！　あおいちゃん！」
　そこへ、同じく現実に戻ってきた天馬ひびきが駆け寄ってくる。
「あの、ね！」
　今度は友達として、お茶でもしない？
　まさか女友達からのこの台詞で、頬を染めることになるとは、思っても見なかった。

　宮祀智瑜は、現実に戻ってすぐ、街の本屋を探しまわる。
「また会いに行きたいな……」
　彼女は、タイターニアに恋をしたあのとき、彼女の真実の望みを知ってしまった。
『ただ寂しくて、悔しくて、許せなくて、』
　だから八つ当たり。
　その真実はあまりに単純で、あまりに幼稚。でも理屈ではどうにもならないのが恋心。それは智瑜自身がよく、知っていること。
「やっと、ありました」　
　埃をかぶって、忘れ去られてしまった一冊の本。喜劇を喜劇として受け入れきれなかったひとりの女性の罪の物語。
(気が済むまで、お付き合いします)
　でも。もう惚れ薬はなしですよ。

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