プリントヘルin寝子島高校｜リアクション

プリントヘルin寝子島高校

　一方廊下。巴はふん、と夏朝が逃げた方向へと進んでいた。
（……ボランティアのあたしがこんな目に遭ってるってのに、まったくいいご身分だね！）
　と勢いよく進む巴。その姿に夏朝はちょっと涙目になる。けれども、巴の様子も少しおかしかった。
「これは正気に戻って帰って来るのを待つんじゃなく、捕まえに言ったほうが良いねぇ。ふふ、今のアタシに不可能は無いよっ！！」
　巴は不敵に微笑んだ。そしてその手には女性下着の広告で挟んだレシピのプリント。そして、彼女の脳裏に浮んでいたのは刺激的に赤いランジェリーに身を包んだ彼女自身の姿だった！！　元々プロポーションは良い巴の燐とした美しさとバイオレンスさを引き立てる妖艶なデザインのブラジャーとハイレグのパンティはさぞ男たちを魅了するだろう。あ、因みに巴さん、実際に着ているような気分にもなっている模様。
「な、なんで僕こんな所に……？」
　印刷室から離れた事で我に帰った夏朝だったが、振り返ると不敵な笑みを浮かべた巴が迫っていた。しかも無理やりプリントを握らされ急に空腹になってしまう始末！
「えっ？　ええっ？！　なんでお腹が……」
「ふんっ、大人しく印刷室に戻るよ！」
　くたんと座り込んでしまう夏朝を抱え、巴は意気揚々と印刷室へ向う。その最中自分が正気に戻った事を説明する夏朝だったが、巴には信じがたい事だった。
　その時、夏朝は巴が持っていた女性下着のプリントに興味を持った。そして、何気なく手を伸ばす。巴が不思議に思っている中、夏朝の脳裏に過ぎったのは、身長が伸びて魅力的に発育した彼女自身の姿。しかもエキゾチックな刺繍の入ったハーフカップの青いブラジャーとローライズなパンティを纏っていた。
（……えっ？）
　それだけならよかったのだが、その手には血塗れのナイフが握られていた。何かに腰掛てなまめかしい足を組み、その切っ先に口づけしている。嘗て『視て』しまった大学生ぐらいの自分の姿を思い出し、夏朝は顔面蒼白になる。
「？！　ど、どうしたんだい？？」
「いや……」
（あの「僕」を目覚めさせるもんか！　今年中に、なんとかしないと……！！）
　全校生徒の前で校長先生のズボンのチャックが全開になってる事を指摘する方が、何倍もマシな未来。そんな物を回避する。その強い意志によって効果を打ち消した夏朝は、1つ頷いた。
「あのね、良い事思いついたの。美術室に一緒に行ってくれると嬉しいな」
「？　あの印刷機がらみのかい？」
　巴がきょとんとしていると、夏朝は考えた事を伝えた。

「あら、浮月ちゃんから話を聞いてはいたけれど予想以上ねぇ。早く止めなくちゃ」
　溜め息混じりにそう言ったのは美崎岬である。彼がイヤリングを揺らしながら小首を傾げると、花風冴来と常闇月の姿を見つけた。ちらりと見えたのは冴来の傍に落ちていた女性下着の広告だった。因みに、月は冴来へと「このようなデザインが似合うのでは？」と花の刺繍が愛らしい、オレンジ色のベビードールの広告を見せていた。
（あら、可愛いデザイン。この前ベビードールを着たけれど着心地よかったわよ。お腹が冷えちゃいそうだけど）
どうしてそんな物があるのか不思議に思いながらも２人に声をかければ、冴来はほっとしたのか、優しい笑みを浮かべる。
「調度良かったわ！　岬、この状況を何とかしたいの。お願い、協力して頂戴！！」
　ところが、この時。冴来は無自覚にもろっこん『ラブリートリック』を使ってしまっていた。発動条件は『にっこりと可愛らしく微笑みながらお願い事をする』であり、その効果は『お願いをした異性に「願いを叶えてあげたい」という衝動を芽生えさせる』という物。そして岬は口調や見た目は女性らしいが男性である。