プリントヘルin寝子島高校｜リアクション

プリントヘルin寝子島高校

「キョウヤはお酒が弱いのにコウタにかっこいい所を見せたくて無理しちゃうのよね。でもそんなキョウヤにコウタは惹かれているの！　でね、この後2人は……」
　と妄想を思わず語りだす綾世。同時に発動する彼女のろっこん＝もれいびにのみ脳内再生されるBL的ワンシーン。それにも美咲紀は歓喜（？）するけど今回は小声だったので傍らの美咲紀のみに効果があった模様。
「こ、こんな状況だとあたしのろっこんも使えないし……泉先生に報告した方がいいのかなぁ……」
伊藤佳奈が首を捻りながら呟く。彼女のろっこん『イマアイニユキマス』は『探す顔を思い浮かべ「ロロレンロ」と唱える』ことで『探したい人が今自分がいる位置から見てどの方向にいるのかが解る』という物なので現在の状況打破には使えない。佳奈は、美咲紀と綾世がどこか恋に恋しているような雰囲気になり、いよいよまずいな、と内心焦っていた。
「言うとしたら印刷機の不調としか言えないだろう。確か『ひと』だったから神魂云々は知らないと思う」
　どこか赤い顔をした浮舟久雨が言う。え？　何故彼女の顔が赤いかって？　実は外に出た際自分の体についた紙を手にしたらそれがラブコメ漫画だっただけである。彼女は無意識にやった事とは言え、キッチリ効果が現れてしまう。自然に目を向けるのは恋人である畑生言嗣の姿。今も、彼はにこり、と楽しげに微笑んでいる。
（他の者ならこれほど意識する事はないと言うのに……。先程から奴の視線が私に刺さってくるのが分かるが、私は差出がましい事をしただろうか？）
　頭が回らないのも相まって悶々としてしまう彼女。心配そうに佳奈が見る中、言嗣もまた考察をめぐらせる。
（ん？　久雨君はどうしたのだろう？　誘っているのだろうか？　誘っているのだとするならばここで応えなければ男が廃るというもの。しかし、ココには大勢の人がいる。その状態で……？）
　しかし、答えは直ぐに出た。
（もしかすると久雨君は見られるのが好きなのでは……！？　そうとわかれば急がねば……！）
　それならば合点がいく、と頷いた彼は早速久雨の元へ歩み寄る。そうすれば久雨は耳まで真っ赤になりつつ問いかけた。妙にもじもじしつつも恋人にのみ聞こえるよう、彼の耳元で
「やはり私は、言嗣の事が、好き……だから、こんなにも思考が乱れてしまう、のだろうか……？　こんなにも切なくて、じれったくなるのだろうか……？」
　と妙に潤んだ瞳で言嗣を見つめる。まるで子猫みたいな眼差しに、言嗣の思考回路が一瞬だけ固まった。そして……。

　――ずっきゅーん！

　そんな音がするような雰囲気が、言嗣から漏れた。ふむ、と不敵に笑ったと思えば、彼はあっという間に久雨を抱きしめていた。
「なっ……？！」
「実は私も先ほどから作業に集中出来なくて困っていたのだよ。成る程、やはり我々は相思相愛なのだね」
　ラブラブだな、と付け加え頭をなでなでしながら楽しげな言嗣。腕の中で久雨は恥ずかしさのあまり暫くの間固まっていたが、直ぐに我に帰った。
「ちょっと待て、言嗣、離せ！　はなっ……話を聞けっ！」
「聞いているよ、久雨君。　こうして欲しかったんだよね？」
「ちっ、違う！　え？　その……そう言う訳では……で、でも……」
　抱きしめられて混乱気味にあたふたする久雨を、さらに愛しく思って抱きしめたりナデナデしたりする言嗣。そんな光景に目撃者たちは一同ほっこりするやら呆れるやらするのだった。
（うーん、確かにラブラブで見た目だけならBLなんだけどなぁ……）
（NLには興味がないのだけれど……）
　そんな2人を見て物足りなさそうに見つめる美咲紀と綾世。その傍らで佳奈はその場にいるのが恥ずかしくなったのか、逃げるように美術室へと向うのだった。