プリントヘルin寝子島高校｜リアクション

プリントヘルin寝子島高校

（は、発動してしまった？！　仲の良い人には使わないって決めていたのに……！）
　冴来が気付いた時には遅かった。発動条件と効果対象が合致した今、その力は岬の胸の中に確かな意志を芽生えさせる。彼はにっこりと微笑んで冴来の頬を両手で触れた。
「ええ、きっと止めてみせるわ。だって、こんなに愛しい冴来ちゃんのお願いだもの！」
　力が発動してしまった事を後悔していたが、ふと、彼女の青い瞳が岬の茶色い瞳と重なった。
「岬……」
「貴女は、私の愛が全てへの愛だと言うけれど……ね？」
　やんわりとした笑みに魅入られた途端、冴来の左足に違和感が。そんな様子を月は黙って見守っている。岬は笑みを強め、滑らかな声で囀った。
「私の愛しい貴女……。凛と澄ました強気が滲む金色の髪も、深い海の哀しみを沈めた青い瞳も……」
　愛を囁き始める岬の瞳から、冴来は目が離せない。同時に動かなくなる左足を押さえ、彼女は息を飲む。
「滑らかな棘を押し込めた雪の肌も、狂風に揉まれる強く弱い羽の心も……」
　岬は囁く。冴来への愛を、彼女の全てへの愛を。そうすればそうするだけ、冴来の左足は動かない。岬のろっこん『致命的な婚約　-デッド・マリー-』は『《負傷状態》で対象の頬に触れ、愛を囁く』事で『自身の負傷部位を対象と共有する』という力だ。しかも相手を注視しながら愛を囁いている間、ずっとである。その上、岬の左足は義足なのだ。
「貴女が知らないだけで、貴女が思う以上に……私は貴女を愛しているのよ？」
　動けなくなってしまった冴来は、少し頬を赤く染めつつも溜め息を付いた。状況打破の協力を願ったのだが、なんだかどうでもよくなってきて、岬への愛まで溢れて遂には笑顔で、
「岬……うれしいわ！　私も、貴女を愛しているの。心の底から愛してるわっ！！」
　花のような笑顔で愛を語らう乙女2人。そんな光景に月はふむ、と頷いて冷静に分析していた。
（互いが互いに愛を語るとは。どちらかのろっこんの影響でしょうかね？　何故か花風さんの足の様子がおかしいような気がします）
　そんな風にしていると、岬と冴来は月へも優しくて愛らしい笑みを向ける。
「勿論、月ちゃんの事も愛しているわ。夜闇のような黒髪も、愛らしい瞳も、しなやかで子猫のような姿も……みんなみんな愛してるっ！」
「私も、月のこと、大好き！　愛してるわ！」
　突如として語られる愛に困惑する月。「私の愛、受け取って？」と岬が月の頬に触れれば、黒い瞳は岬に釘付けになる。大きな声と２人のテンションに押され気味となった月の困惑は更に深まる。「愛ですか」と呟き、彼女はぽつり、と問いかける。
「……愛とは、その、どのような感情なのでしょうか？　私には……人間らしい感情が摩耗しているので……」
　明らかに戸惑っている月へと微笑む岬と冴来。二人は月を抱きしめてこう言った。
「ならば、今から体感すればいいのよ？　いっぱい愛を囁いてあげるわ♪」
「一緒にこの気持ちを分かち合いましょう！」
　2人に抱きしめられながら、月はなんとなく２人のろっこんの相乗効果かもしれない、と考えるのだった。
　遠目から見れば女の子３人がきゃっきゃっうふふしている様子に見え、美咲紀は少し黄色い声を漏らしていた。
（やっぱりNLでは物足りないけど、GLというのもいいものね……！！）

「あれ……印刷機の電源を落とした方がいいような……」
「それでも止まらなかったらどうしましょう？」
　刀の呟きに御巫時子が不安げに問えば、傍らの圭花は不敵に微笑みつつ拳を掌に打ち付ける。
「それならロシア式修理法（注：叩く）を試しましょ」
　そこに掛かる「ちょっと待つのだ」コール！　その声の主は元気いっぱいの後木真央。彼女はびしっと人差し指を立てて熱く語る。