プリントヘルin寝子島高校｜リアクション

プリントヘルin寝子島高校

（しかし、身に着けているのが久雨君だと想像するならば楽しいだろう。ふむ、彼女はこういった下着を穿くのだろうか……？）
　と思わず考えてしまう言嗣。思わず笑いが口から漏れ、様子を見ていた冴来に怪訝そうな顔をされる。
「まったく、どうしたというの？　……これは？」
　肩を竦めつつも拾ったのはまたもや女性下着の広告。脳裏に浮んだのは冴来が理想とする体形で、艶やかな下着を身に着けている姿だった。こちらは淡いピンクのブラジャーとショーツで、清楚な白いレースが彼女の上品な魅力を引き立てている。
（まぁ！　ちゃんと身長も胸もあって……大人の魅力って素敵だわ……）
　ところが、再び雪崩る紙の音。どうにか避ける久雨と思わず指を紙で切って我に帰る言嗣の呟き。それらの音でこちらも我に帰る。
「って何を想像しているの、私は！　そんな事をしに来たわけじゃないのに！！」
　それでも想像が頭から離れず苛々してしまう冴来だった。
　彼らと同じように下着のチラシを手に取った佳奈もまた、ふわふわ～っとした妄想に囚われていた。こちらはばばんっ！　と胸がたわわに実りその上剣道で鍛えたしなやかなボディを紫色の際どいパンティとブラジャーで包み、悠然と微笑む自分を想像してしまった。
（すっごいっ！　これなら誰にも貧乳なんて言わせない！　ちょっとエッチかもしれないけど……大人の魅力だよね！）
　黒いレースのアクセントが光るデザインのランジェリー姿。これで男の子の前にでたらたちまち悩殺できちゃう？　なんて考えているうちに佳奈の顔は茹蛸の如く真っ赤になった。
「～～～～～～～～っ！！」
　恥ずかしくなってチラシを投げ捨てるも、イメージは頭から離れない。これも神魂の所為なのかな、と思いながらも佳奈は印刷機を止める方法を考えた。

（ね、猫さん……っ！！）
　一人しゃがんでいた夏朝。彼女は野良猫の観察レポートを手にとってからずっと欲望と戦い続けていた。猫が好きな夏朝にとってそれは抗い難い欲望だった。それ故に作業が進まなかったのである！！
（ううん、ダメだよ。まずはしおりを作らなくちゃ。プリントを……）
　それでも胸に沸き起こる、猫と遊びたいという欲求。ふつふつと沸き起こり続ける感情は猫を求め、夏朝はそれに身を委ねたくてたまらなかった。
「まだ、まだなんだから……」
　夏朝はぐっ、と手に力を込めて自分の気持ちと戦っていた。

「大丈夫ですか……？」
「しっかりなのよ～！」
　時子と伸幸が突き出た手を引っ張ってどうにか弥栄を紙の中から助け出す。ぶわり、と紙が舞って身を起こした弥栄の鼻の下には、何故か赤い汚れが……。それに思わず時子が小さな悲鳴を上げる。
「だ、大丈夫ですか……？　お怪我はありませんか……？」
　時子が問い掛け、伸幸が声を掛けると弥栄は瞬きして我に帰る。その瞬間顔を真っ赤にし、鼻を押さえて俯いてしまった。
「ど、どこか痛いのですか……？」
「そ、そう言うわけじゃないんです。あの、その、鼻血がでてしまって」
　時子の問いに恥ずかしそうに応える弥栄。彼女はそれとなくハンカチを差し出し、弥栄は「汚す訳には行かないから」と申し訳無さそうに断る。一方、どうにか助けられた、とほっとしていた伸幸だが一人足りない事に気付く。
「あやぁ？　八神さん？　八神さんどこなのよ～？」
　一緒に弥栄を助けようとしていた修の姿が無い。不思議に思っていると……、彼は一枚の漫画を手に頬を赤く染めてしゃがみ込んでいた。弥栄を救出する際、うっかりラブコメディを手にしてしまったが、同時に脳裏に浮んだのは彼が想いを寄せているツインテールの女の子だ。数学の教科書を手に上目遣いで『修君、ここの問題、教えて欲しいな』と笑いかけている。