プリントヘルin寝子島高校｜リアクション

プリントヘルin寝子島高校

「表紙製作に戻るよ。手伝えないのは申し訳ないが」
　そう言うと月詠は「健闘を祈る」付け加えて印刷室を出、そのまま何事も無かったかのように２年５組の教室へ。そこで早川珪にこんな質問をする。
「先生、印刷室の印刷機がトラブルで作業効率が悪くなった。だから、別の印刷機を使いたいのだが……」
「うーん、確か事務室にあるけれど、事務室の印刷機は今修理中で使えないんだ」
　その言葉に月詠は小さく頷き、頭を下げて退室した。やはり、あの印刷機のトラブルを解決しない事にはいけないらしい。
　２人が話している様子を何気なく見ていた綾辻綾花は備品を整理していた。美術室の様子を報告した後、彼女は珪と共にいつでも製本できるように準備をしていたのだ。
（先生、今日も素敵ですね）
　思わず溜め息を付きながら傍らの珪を見上げる。さらりとした黒いアシンメトリーの髪に、整った顔立ち、穏やかな笑顔……。綾花は頬を赤く染めながら、珪を見つめる。
「あ、あの……、先生は林間学校や臨海学校の思い出って、ありますか？」
「そうだね……。テント設営中に土砂降りになって、急遽広いバンガローに泊まる事になった事があるよ」
　珪はくすっ、と笑ってその時の事を話し始める。綾花はその話を聞きながら、こうして２人きりというような状況にときめきが止まらなかった。

　再び印刷室。
　どうにかしおりを探さねば、と時子は一人プリントに触れた。それは漫画のワンシーンで、主人公が思いを寄せる女性から珈琲を入れてもらい、ドキドキしている、と言う物だった。同時に脳裏に浮ぶのは思いを寄せる化学教師の姿。
（だ、ダメです！　今はこの状況を打破しなくてはならないのに……）
　高鳴る胸を押さえ、必死に首を振って堪えようとする時子。けれども想い人へ珈琲をいれ、優しく微笑まれるというような想像が脳裏を過ぎって更に頬を赤くする。
（しっかりしなくては！）
　と、咄嗟に別のプリントに触れれば、急に心が落ち着いていく。よく見るとそれは林間学校について書かれたもの。そこで時子は何か閃く。
「もしかして……」

　こんな状況の中、冷静に判断し紙を退けようと考えた普堂しおりは用務員さんから火ハサミと軍手、ダンボールを借りてきていた。
「これでプリント地獄が減るねっ！」
「そうだな。印刷機のコンセントを抜くにしても先にこれをどうにかしなくちゃな」
　刀もまた頷きながら答え、徐にプリントに触った。と同時に空腹になっていた。ちらりと見れば料理のレシピ。刀はぐっ、と歯を食いしばった。
（こっ、これはキツイが……気合、気合だ！）
　普段から精神も鍛えている刀は心の中で叫んだ！　イメージ的には終業式の挨拶の途中で皆の前に出て指摘するように……！！

『校長先生！　頭光って眩しいです！』

　脳裏に広がるは静まり返る講堂。固まる校長。そして、ぐっと手を握り締めて叫ぶ刀自身。同時に引いていく空腹感。どうやら、彼の気合いが勝ったらしい。……が、軍手でレシピに触れたしおりは今まさにプリントを食べようとしていた！
「ちょっとまて、普堂！！」
「ふえっ？！」
　刀に止められてきょとん、とするしおり。彼は近くにまたたびメイトが落ちているのを見つける。どうやら弥栄が落としたらしい。
「渡辺先輩、またたびメイト下さい！！」
「え？　ええ、どうぞ！」
　刀は礼を述べるとしおりと共にまたたびメイトにかじりついた。程よい甘みが精神的な疲れを少し癒してくれるのを感じつつ、2人は気合いを入れなおす。
「プリントに手で触ったら何かしらの効果を受けるのかな？」
　そう言いながら別のプリントに触れると、空腹感があっという間に消えた。よく見ればそれは臨海学校の物である。
「しおりの内容に触れれば、効果が無くなるんだな」
「これって大発見だねっ！」
　2人は思わずハイタッチで喜びを分かち合った。そして、その様子を見ていた時子と共に他のメンバーにもその事を伝えて回るのだった。