はや瀬のぞめき｜リアクション

はや瀬のぞめき

　　【きらいじゃない・きらい・だいきらい】

　「(今日はお休みだからかな。いつもより、観光客の人が多い……)」
　海の側にある、寝子ヶ浜海浜公園の路上テラスにて、恵御納夏朝は夏休みの宿題に取り組んでいた。
　白と赤の天幕をしたパラソルが日光を遮り日陰を作る。
　それでも、暑いものは暑い。
　「……あつい……」
　思わず口に出てしまう。
　夏休みは楽しみたい、その為に休み前半で宿題を片付けようとしていた夏朝であったが、とにかく暑い。
　外でやる方が早く進むかと思っていたが、今日の暑さは予想を大きく超えていた。

　「………………」
　思わず暑さで頭がぼんやりしてくる。景色を眺めていれば、どこにでも観光客がいるようだ。
　その中には学生や子供の姿も見える。海浜公園は、側の砂浜が半ば繋がっているせいか、水着姿にパーカーという姿もちらほら見かけた。
　皆宿題は終わったのだろうか「宿題はコツコツやらないと後が大変になる」ってお父さんが言ってたんだ……という、ここにいない父の格言にも近しい言葉を思い起こす。
　「飲み物……買いに行こう」
　頭が上手く纏まらない。一旦荷物を纏めて、席を立つ。
　席は埋まってしまうだろうが、居座る客は少なく入れ替わりも激しいから、すぐに席は空くだろう。

　直射日光は暑いが、風は心地良かった。
　改めて見れば、見慣れた公園の景色も緑が多く綺麗なものだ。
　しかし、そんな中で、落ちているゴミの入っているビニール袋を見つけた。
　側にはゴミとなった空き缶が落ちている。
　夏朝はそれを無言で拾い上げた。
　「………………」
　寝子島を楽しんで、こんなに綺麗なものを見に来ているはずなのに、どうしてこんな心ない事をするのだろう。
　夏朝の心に、少し冷たいものが走り残った。

　ゴミはゴミ箱に。
　次に夏朝が目にした光景は、公園の外観のインテリアの壁の上に空き缶を載せてそのまま去ろうとする若い男性だった。
　「…あの…落としましたよ？」
　捨てたのは分かっていたが、夏朝はそれを拾い敢えて声を掛ける。
　「それは、捨てた奴だからいいんだよ！」
　「……ゴミ箱でもないのに？」
　「……チッ」
　男が夏朝の手から缶を奪い取り、早足で姿を消した。
　──いちいち怒っても仕方の無い事だけれども、と。

　それでも、埃より重い冷たいものがほんの少しずつ積み重なっていくのを、夏朝は感じていた。

　「ねえ、あなた！　ちょっと聞きたいんだけど！！」
　それを意識しないように我慢して、夏朝は振り返る。
　「（もう少しだけ、声量抑えてくれないかな…）
　どうかしましたか？」
　振り返った先には複数の恰幅の良い、年齢もいい年の中年女性の姿があった。

　「ここから寝子島シーサイドアウトレットに行きたいんだけど！　どうやっていけばいいのかしらっ！！」
　夏朝は声のうるささに耳を塞ぎたくなるのを我慢して、それでも丁寧にシーサイドアウトレットへの道を教えた。
　そう、全てが悪い訳じゃないんだと。夏朝は、教えた女性群と別れて、そう自分に言い聞かせながら歩き始めた。

　もうこんな気分では宿題どころではない。
　そう思いながら、ふらふらと歩き始めた先、僅かなペンキの匂いと、少し遠くで海色の青を見た。
　「何だろう、あれ……？」