はや瀬のぞめき｜リアクション

はや瀬のぞめき

　　【かっぱの身嗜みは水褌で】
　　
　「準備はいいのだ、がおー？　アピールタイムの始まりなのだ～」
　ろっこんで呼び出した、ふくふくの猫『がおー』を自転車の籠に乗せながら、後木真央は猫鳴館を飛び出した。
　その出で立ちはパーカー。それは問題ない。
　問題はその他だ。
　観光客が集まるであろう寝子島の名物の一つである海へ向かっているのだが──その姿は、パーカーで隠れているとはいえ、緑の六尺褌を２枚、腰と胸に巻き付けた水着にしてもセンセーショナルな姿。
　そして、背中に付けた幟旗がはためいた。

　『寝子島
　　ＵＭＡを探す夏。』

　筆文字で描かれた幟旗はそれだけで通りすがりの観光客の目を引いた。
　そして、海へ到着。そこからが真央の本領だ。
　焼けないように全身日焼け止めを塗っているのもあって、それだけでも暑かったパーカーを脱ぎ捨てた。
　そして、頭の上に白いハンカチを乗せて、その上から緑のシャンプーハットを被せる。
　──これで、日除けとお皿を模した更なる河童らしさの完成だ。

　「さあ、がおーもこれをつけるのだ」
　連れて来た猫のがおーにも、頭に河童のお皿を模した飾り物をいそいそと頭に乗せて、あごの下に紐で括りつける。
　これで、見事なカッパとなった１人の少女と１匹の猫は、海岸沿いを練り歩き始めた。
　海岸に集まる賑やかな観光客の目が、一気にそれに注目する。

　「お嬢ちゃん、一体何をやっているんだい？」
　さっそく、いかにも金持ちそうな初老の男性が声を掛けてきた。
　「水褌アピールなのだ先従隗始なのだ、寝子島島外で水褌が全国的に流行れば、逆輸入で島の人ももっと水褌派になるのだ！」
　「おお、先従隗始──『まづ隗より始めよ』だったかな……？　良くそんな言葉を知っているねぇ。
　そんな子が水褌を薦めるだなんて、この島は噂どおり本当に変わっているようだ」
　「そんなに誉められると照れるのだ～」
　可愛がられてはいるようだが、誉められているのとは若干違う様子にも、真央は満足げに照れてみせる。
　「でも、水褌とはこの年では勇気がいるからねぇ……」
　「そんなことないのだ！　おじ様のような身体の締まったダンディズム溢れる殿方にこそ、率先して水褌をつけて泳いでもらいたいのだ！」
　真央は一枚のチラシを差し出した。
　真央なりに一生懸命丁寧に自らの手描きで、褌の締め方と褌の種類を纏めて、コピーしてきたチラシである。
　「若い頃を思い出すねぇ。よし、近くで六尺褌を売っているところを教えて──」
　「あなた！　その年にもなってまだロリコンが治ってなかったのですか！
　小学生にまで手を出すだなんて！　私は妻として……妻として……！！」
　細身の婦人が何か恐ろしい言葉を出しながら、男性の耳を強く引っ張り、男性ごとその場を立ち去っていく。
　──真央、何かが危なかった！　危機一髪！！

　それからしばらく。観光客の目には留まるが、それ以上には至らずに。
　真央はがおーと海の家で休んでいた。
　海の家の縁に座りながら、真央がもどかしさに足をばたばたさせる。
　「がおー。なかなか、上手くいかないのだ～」
　少し落ち込みを隠し切れない真央。
　その時、ふと遠くで人が集まっているのが見えた。

　「ん？　……マグロの解体ショー？」

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