はや瀬のぞめき｜リアクション

はや瀬のぞめき

　　【寝子島到着に見たものは】
　
　寝子島シーサイドタウンの駅に降り立った賑やかな観光客が目にしたもの。
　それは直立歩行のサンマと、二足歩行するちくわだった。

　改札から降りた観光客達は我が目を疑った。
　『変で不思議な島だとは聞いていたが』という事前情報すら働かない。
　それだけ、目の前の光景はセンセーショナルだった。ダイナミックだった。
　
　ブフォッ！

　笑いという単語を思い出すまでに何とか復帰した誰かが、思い切り鼻から噴き出すと同時に、他の観光客達も堰を切ったように笑い出す。
　「このままノーリアクションだったらどうしようかと思っちまったぜ」
　『寝子島観光大使兼マスコットキャラクター』のサンマさんが、あごに手を当てながら観光客の笑いに満足そうに笑顔(中の人はいない被り物仕様なので表情は分からない)を見せる。
　側で二本足のちくわの被り物をした、今度はきちんと中身のある青年がまるで自分がちくわである事に胸を張りながら、満足そうにチラシを配り始めた。

　「何かしら？　んまぁっ、海でマグロの解体ショーをやるそうよ！　見に行きたいわぁ」
　高体重に真珠のネックレス、破裂しそうなボディコンシャスな洋服と、どう見てもテンプレートな成金主婦層と思われるおばさま達が、ブランド物のバッグにチラシを乱暴に押し込みドタドタと駅内から去っていく。
　かたわらで、次の電車で来た観光客は物珍しそうには目をやるが、それほどのリアクションも無くチラシも受け取らずに去っていく。

　それが、５回ほど交互に繰り返されたのを見たサンマさんは、あまりのテンションの違いに心折れそうになりながら、呟いた。

　「こいつは寝子島に嵐の気配がするぜェ……」

　……予感がするだけで、本当にそうなるかはサンマさんにも分からないが。

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