ある一夜の夢想い｜リアクション

ある一夜の夢想い

　頼木雨は無意識のうちに、花風ももを直感で探った。
　いつも通りに、である。
「……あれ？」
　雨は小さく首を傾げた。
　どうやら、彼女もこの夢の世界に来ているらしい。
「見つけた。花風さん！」
　雨は名前を呼んで駆け寄った。
（だって、ボクが花風さんを見間違うはずあれへんもん）
　１人で心細そうにしていたももは、雨に気付いて、ほっとしたような笑顔を見せた。
「ここが夢の世界やなんて、何か不思議やね」
　雨の言葉に、ももは頷く。
「雨君、とても嬉しそうね」
「だって、花風さんに会えたんやもん。ふふ、嬉しいなあ」
　元の世界にそっくりな世界で、２人は広場を歩く。
　噴水には綺麗な虹がかかっていた。
「虹の根元には、幸せがあるんだって」
　ももの話を聞きながら、噴水の虹を眺める。
　雨が思い出すのはあの不思議な小旅行だ。
　もものお陰で楽しかったあの水溜まりの小旅行。
　虹の中に、ももと一緒に手を入れてみる。
　虹の中から戻した２人の手には、１つずつ透明な飴があった。
「何か幸せなことを覚えて帰れるってことなのかな……？」
　透明な夢飴は夢から帰る前に舐めるということにして、２人はももの家へ向かった。
　少しだけ玄関の前で待っていて、と言われ、雨は大人しく待つ。
　先にももが家に入って、その次に雨は玄関に入った。
　お邪魔します、と言おうとしたところで、ももに先を越される。
「お帰りなさい」
「へっ？　お帰り？　ボクに？」
　信じられないくらいに、嬉しい気持ちが雨の心を満たす。
　まるで、何かももの特別になれた気分だ。
（自惚れてもええの？）
　心の中で声に出さずに呟いて、雨はとびきりの笑顔をももに見せた。
「……ただいま！」

　ももは、何かが入っている気がしてポケットに手を入れてみた。
「桃色の、飴？」
「ボクの方にも桃色の夢飴が……」
　２人の手のひらに、それぞれ桃色の夢飴。
　あの声は、桃色の効果が何かは言っていなかった。
　ドキドキしながら、ももは桃色の夢飴を口に入れる。
　雨も同じように桃色の夢飴を口に放り込む。
「……うーん？　ただの美味しい飴……かな？」
　甘くて美味しい、けれど。
「何も起こらないね……？」
「どんな効果やったんやろね」
　２人首を傾げながら、桃色の夢飴を舐め終わる。
　まさか効果のない理由が、既に両想いだったから、なんて気付くこともなく。
　ももは、夢の終わりを感じながら、自分の心を見つめた。
　本当は、もうわかっている。
　必要なのは勇気だけ。
（やっぱり僕は、雨君のことが好きみたい）
　覚めたらこの夢は忘れてしまう。
　それなら、我儘を言っても大丈夫だろうか。
　勇気を出して、言ってみる。
「ねぇ、雨君。少しだけぎゅってしてもいい……？」
「ええっ！？　ボボボクでええの！？」
　雨は嬉しそうに笑って、その嬉しい気持ちに任せるように、ぎゅうっとももを抱きしめてくれた。
「雨君とずっと夢の世界にいたいけど、現実の世界に帰らなくちゃ」
「花風さんがいいのなら、ボクはずうっと一緒に居るよ」
　言葉では言い表せない嬉しさを感じつつ、ももは、透明な夢飴を口に入れた。
　その行動は雨も同様、口に放り込む。
（雨君に、抱きしめてもらったの）
　いつか現実でも、抱きしめて貰えたら嬉しいな……。