煙草屋で休憩を｜リアクション

煙草屋で休憩を

　今日の取材は空振りだった。店構えばかり凝っていて、中身は大したことのない小料理屋。まさに質の悪い天ぷらのような店だ。衣は立派で中身はスカスカ。
　世の中のほとんどのお店はそういうものばかりだけど、と中之条靖史は嘆息する。
　しかし、と彼はつぶやいた。捨てる神あれば拾う神あり。こういう空振りの取材の帰り道、思わぬ良いお店と偶然に出会うなんてこともままあるのだった。
　どうやら煙草屋のようである。なかなか堂に入った店構え、店内の品揃えも充実していそうだった。面白いネタが拾えるかもしれない。そう考えて靖史は店の扉をくぐる。
「こんにちは、すみません」
「いらっしゃい」
　靖史はちょっと面食らう。店構えから想像したのと違って、店主が若い女性だったからだ。
「あのー、ちょっと取材させていただいてもよろしいですか？」
「うーん、受けてやりたいのはやまやまだけど、今ちょっと仕事がね」
　という会話が交わされた時、店の扉を開き、一人の女性が入ってくる。それを見て、瑛華は靖史にこう告げる。
「代わりにあいつがいろいろ教えてやるってさ」
　入ってきたのは桜花満。びしっと決まったスーツ姿である。彼女はきょろきょろと瑛華と靖史の顔を見比べる。
「なんですか？　私に何か聞きたいことでも？　酒と煙草のことでしたらなんでも。たとえばこの煙草の産地は――」
「えーっと……」
　躊躇する靖史を気にせず、満は煙草のうんちくを並べ始めた。
「ああなると止まらないね」
　と瑛華はにやにやと。そこへまた扉が開いて客が入ってくる。
「すみません」
　と声をかけてきたのは稲波鷹志であった。
「ああ、いらっしゃい。カメラマンの。なんだい？　あんたも取材かい？」
「いや、俺はただ煙草を買いに来ただけ。日本に帰ってきて思ったけど、喫煙者の肩身が狭くなったねぇ」
「時代の流れさ。健康に気を使えるってのは、平和な証拠だよ」
「相変わらず達観してるねぇ。戦場の一つや二つ、経験してきたみたいだ」
　瑛華は少し目を伏せ、
「商売は戦争みたいなものさ」
　鷹志は煙草を受け取り、店の奥の喫煙席へ向かう。
　ひとしきり語り終えた満は、瑛華のいるカウンターへやってくる。
「やあ。今日は何か珍しい煙草は入ってない？」
　その質問に瑛華は神妙な表情を作り、
「世にも不思議な煙草があるんだ。中身は何一つ変わっていないのに、何年かに一回値段が上がる。不思議なものさ」
「ただの増税だろう」
「冗談通じないのかね」
　と、呆れてみせる。

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