らっかみさんらっかみさんお越しください！｜リアクション

らっかみさんらっかみさんお越しください！

●部室棟

　八神修が目覚めたのは見慣れた場所、使い慣れた場所――新聞部の部室――だった。
　ゆえに些細な変化にすぐに気がつく。やけに暗いこと、不思議な黒い影が歩いていることなどだ。
　幸いこの部屋に動く影のようなものは居ないが、あれが何かはわからない以上うかつに動くことが出来ない。
「……暗いな」
　まずは視界をクリアに。
　修は備品入れのロッカーから懐中電灯を取り出した。
　そしてその懐中電灯の明かりを頼りに、部室、廊下、窓の外を丁寧に観察していった。
　やはり目につくのは北校舎三階の隅の部屋。
　窓から明かりが溢れるのとは違い、その部屋自体がぼんやりと光って見えるのだ。
「あそこか」
　あそこに何かがある。修は頷いて、まずは階段に向かった。

　鼻をつくすえた臭い――汗臭さに碓氷真理は眉をひそめた。
　九夜神社の掃除をしていたはずなのに、何故かは分からないがどうやら体育部の部室に飛ばされたようだった。
　しかしそんな感覚を鈍らせるものが、驚きがあったにも関わらず、真理はすぐに『異変』に気がついた。
　つん、と鼻の奥がむずいた。匂いのせいでも、くしゃみがしたくなったわけでもない。
「荒御霊化した『友達』の気配がする。それも、多数だ」
　理由はわからないが、思わず真理は舌打ちをした。
　友達――彼女がそう呼ぶのは人ならざる者、幽霊と呼ばれる者たちのことだ。
　そして彼女の言う荒御霊(あらみたま)とは、怒れる神々や神々のそういった側面、あるいは荒ぶる魂のことを指す。
　一般的には、悪霊などと呼ばれるものだった。
　けれど、悪霊、などと友達を突き放すことは彼女にはできるはずもない。
「鎮めなくては……」
　死してなおこの世に縛られ苦しむ友人たちを救う。
　真理には、彼らを思う心と技があった。
　部室棟の入り口にいる友達と目があった。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」
　刹那、真理は素早く唱える真言に合わせて手刀で空間を縦横に切り、
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前！」
　二度目の真言で、九字それぞれの印を結んだ。
　すると影はふわりと散灰していく。
　体の端から散っていき、その間、体上部にある逆三角に並んだ三つの穴の中のひとつ――口だろう部分を懸命に動かしていた。
　音にはならない。しかし真理には彼の言葉が聞こえてくる。
「ゆっくり休めばいい」
　真理がそう言うと、心残りはないというように霊は空気に溶けていった。
　そして階段を降ってきた修と顔を合わせるのであった。