らっかみさんらっかみさんお越しください！｜リアクション

らっかみさんらっかみさんお越しください！

●一年普通科教室

　地面が揺れて、桜崎巴はほんの一瞬意識がはじけ飛び、真っ白になった。
「っ」
　あまりに突然の出来事で思わず目を瞑る。
　そして目を開けると――
「……どこだいここは」
　そこは薄暗い教室の中だった。
　しばらく目を凝らしていると、だんだんに暗闇に目が慣れてくる。
「って、よく見たらあたしの教室じゃないかい。何であたしはこんな所にいるんだい？」
　と言いながらも、巴は確信した。
　これはろっこんの仕業である、と。
　実際そうであるかどうかはわからないが、少なくともソレに似た力が働いているに違いない。
「こういうのは、とっとと終了条件を探すに限るさ」
　ため息混じりでそう呟いて、巴はすぅっと目を細める。
「まずは怪しい場所を見つけないとね」
　そうしてぐるりと教室を見渡すと廊下の方から仄明かりが漏れているのに気がついた。
　警戒しながら、けれど淀みない足取りで巴は廊下に出た。
「なんだありゃ？」
　出るとすぐに歩く影に出くわす。のそのそとした動きで、それは巴に近づいてきた。
　窓から差し込む光を避けながら。
　ああ、と思って巴は教室と廊下の電気をつけた。
　と、その影はしゅっと音を立てて消えてしまった。
　そして目的を思い出す。光は窓から差し込んでいるのだ。
　巴は消えた影を不審に思いながらも、窓を覗き見た。
　光っているのは窓ではなくて、北校舎の三階の教室。
「一目瞭然だね」
　巴は迷わずにその教室を目指すことにした。
　そのついでに通る教室、廊下すべてに電気を点けることにした。
「エクソシスター☆ゼシカＳＯＳですわ」
　なんだか変なのが出てきたな。
　巴は口の右端に笑みを浮かべた。

　修道着に残る甘い香りに引き寄せられるように、ゆら、ゆらりと影が近づいてくる。
「まあ、大変！」
　その影を目の前にして、ゼシカ・ホーエンハイムは控えめに口を開いて驚いていた。
「パイが焦げてしまいます！」
　実は彼女。
　蔦薔薇の館でパイを焼いているところだった。
　それがいつの間にか寝子高の一年一組の教室に居るものだから、オーブンの中にあるパイが気になって気になって――
「……館が火事にでもなったら大変。早く帰らねば」
　という次第である。
　そうしてまっすぐに出口を目指そうとするとゆらゆらと歩いていた影がゼシカの前に立ちはだかる。
「あら、何ですか貴方は？」
　そうしてはじめてゼシカは影の存在に気がついたのだった。その人ならざる者の存在に。
「あなたはまさか……」
　ゼシカは先ほどよりも大きく口を開け叫んだ。
「悪魔！」
　その言葉は驚きよりも喜びに満ち溢れていた。
「わかりました、」
　そうして『先生、問題解けました！』とはしゃぐ子供のように、ゼシカは腰紐に引っ掛けておいたロザリオに手を伸ばした。
「わたくしがここに召喚されたのは主の思し召し」
　それからもう片方の手で、懐から小さな聖書を取り出して、
「祝福されし聖なる力でサタンの使いを追い払えと主は仰せなのですね」
　両手をぐいと突き出した。
「エクソシスター☆ゼシカＳＯＳですわ」
　ちょうどその時、教室の明かりが点いたのだった。

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