●困った保健委員と、困った風紀委員たち●


【体育館１Ｆ・中央フロア】

　ところで、ネズミを見て気絶してしまった我らが風紀委員長こと、北風 貴子がその後どうなっているのかと言うと……
「貴子……良い人だったのに……って、風紀委員が寝てんじゃない！　おーきーろー！」
　やっぱりまだ、絶賛気絶中のままなのだった。
「バストサイズを測ろうだなんて無粋な輩には目にもの見せてやるんでしょー！」
　と阿寒湖 まりもが、ぺちぺちと貴子の頬を叩けば、その一方では、
「あわわ！　き、北風先輩が倒れてしまいましたぁ〜！
　と、とりあえず、怪我とかないか診て、応急手当てしておきますぅ〜」
　属性：ドジっ娘保健委員の添木 牡丹が、あわてて運んできた救急箱を見事にぶちまけ、
「わきゃあ！」
　踏んですっ転んだ包帯に、もがー、もががー、と１人で絡まったりしている。
「Oh、タイヘン！　モラルキーパーのタカコが倒れてしまったわ！
　ここはメディックの私の腕の見せ所ね！」
　とりわけヒドイのは、やはり１年５組の保健委員、レイラ・トンプソンだ。
「イザ、サーチ＆レスキュー！　とうっ！」
　ろっこん【キャット・エアレイド】で、華麗に回転ジャンプしながら颯爽と登場……したはいいものの、貴子の脈を取ったり、おでこをくっ付けて熱を見てみたり。
　ふむふむと１人でうなずいてはいるが、実際の所はおバカなド素人なので、やってることは見よう見まねの、お医者さんゴッコのレベルだ。ぽよよ〜〜んと胸許のボタンが弾けんばかりのナース服も、このアメリカからの留学生・レイラが着ると、どうもコスプレにしか見えないし。


「困ったわね、原因が分からないわ。仕方ない、とりあえず服を脱がせて……
　Oh、No！　ボーイズの視線がバッドね！　ひとまず用具倉庫に運んで介抱よ！」
　と脱がしかけの貴子を、これまた体育用具倉庫に運ぼうとするレイラだったが、……ん？　ボーイズ？
　こんな騒ぎになるまで身体測定の手伝いをしていた、同じく保健委員の御鏡 聖が、あれあれ？と、サイドテールの小首をかしげる。
　籠城中のこの体育館には、（測量部員の捕虜たちを除けば）今は女子たち＝つまりガールズしかここにはいないはず……？
「風紀委員長を用具倉庫に運ぶのは少し待ってもらえませんか。
　測量部を釣るには餌が必要な訳で、貴子先輩を囮にする作戦を僕は提案します」
　と思ったら、いた！
　紛うことなき風紀委員の男子、１年３組の佐久間 堂鉄だ！
「普段、堅物の風紀委員長のバストサイズを餌に誘き出して一斉に確保する単純明快な作戦です。
　貴子先輩の測定が行われる時間情報は事前に測量部員に流しておきましたので……、何か？」
「あわわ、ど、どこから入り込んで来たのでしゅ（噛んだ）
　だ、男子がしれっと、紛れ込んでるのですぅー」
　と添木牡丹にアワアワとへたりこまれて、ようやく佐久間も、今自分がここにいる不自然さに気が付いたようだ。しかし、彼の密かな野望を達成するには、今、このタイミングのこの場所に登場するしかなかった。さっきも言ったように、すでに測量部員に、貴子の測定予定時刻は伝えてしまったのだ。
「……風紀委員長の危機に風紀委員が駆け付けるのは、男だろうと当然のことです」
　と、苦しい抗弁をして、この場を切り抜けようとする佐久間堂鉄だったが、
「興奮による体温上昇を感知。さらに心拍数の上昇を観測。
　……その不審者の言うことを、信じるな。
　その佐久間とやら──、測量部員だぞ！」

　ばばーーーーーーーーーーーーーん！！

　計測助手として参加していた１人の眼鏡女子が、やおら立ち上がると佐久間をズビリと指差し、その正体を看破してみせた！
「Oh、No！　風紀委員なのに測量部員！？　ハイブリッドなシェリフボーイね♪」
　ろっこん【キャット・エアレイド】の無駄に３回転半なジャンプで、レイラが逃げようとした佐久間の前に立ち塞がり、あわわと添木牡丹が持ち寄った包帯で、あっさりお縄に。
「くっ。な、何故、僕が測量部員だと判ったんです……
　風紀委員会でも極力目立たないよう、こんなに地味にしているのに……？」
　狼狽した佐久間の問いに、その渋めの眼鏡女子──１年６組の菅原 嶺が答えた。
「『北風の測定時間を、事前に測量部員に流す』とか何とか先刻言っていたようだが……、
　この突発的に起こった騒ぎの前に、何故そんな手の込んだ事が出来る？」
「そ、それは……」
「予めこの事態が起こることを知っていなければ、事前にそこまでの仕込みは出来ん。
　そもそも、『罠情報を流す』と言ったが、では、どうやってその測量部員たちと接触した？
　それが出来たのは、佐久間自身が測量部の一員だったからではないか？」
　ビシバシと厳密厳格に、佐久間の発言の弱い所を、あばき立てていく菅原嶺。
「し、しかしそれだけでは、僕が隠れ測量部員だと言う、決定的な証拠にはならな……」
「認めよう。だが、この私のろっこん──【アブソリュートメジャメント】の前には、
　そんな言い逃れも、もはや通用せん！」
　と嶺が左右の手を開いて、その場にいる全員に見せたのは、体温計と血圧計だ。
「計測用具を直に用いずとも、対象をひと睨みしさえすれば、
　リモートでその測定結果を計測できるろっこんだ。
　ムッツリを偽装していても、先刻からの体温上昇と血圧異常は、もはや誤魔化せんぞ！」
「ぐ……そんなもれいびが、ここにいたとは迂闊……（がっくり）」
　隠れ測量部員であることを暴露された、この佐久間堂鉄の密かな目的とは、彼のボスでもある風紀委員長・北風貴子の、難攻不落の要塞バストを、わざと測量部に測らせること。
　バストサイズが知れれば、それで良し。
　失敗して測量部員が確保されても、風紀委員としては手柄になるので、どちらに転んでも自分の損にはならない……そう考えての行動だったが、こうしてあっけなく佐久間の野望は、白日のもとに晒されてしまったのであった。


「す、すごいんですね、菅原さんのろっこんって」
　正体がばれ、キリキリと引っ立てられていく佐久間 堂鉄と、ついでに同じ用具倉庫に北風貴子を運んで行く、レイラ・トンプソンや添木 牡丹らの後ろ姿を見送りながら、御鏡 聖が話しかけた。
　さっきまで聖といっしょに、この身体測定を手伝っていた菅原 嶺だったが、まさかこんな高性能なろっこんの持ち主だったとは。『ひと』である聖には、もれいびたちの能力は、ちょっとした脅威だ。
「こんな騒動になってしまったからには、伏兵看破、侵入者・不審者の早期発見に努め、
　他の防衛戦力と協調し捕縛を支援しよう。それが真・測量部員である私の役目だからな」
「し、真・測量部員？」
「そうとも、私は測量部員である」
　物騒なことを言い出した嶺を、ぎょっとして見返し、あわてて体操着の胸を押さえる聖。だが、そんなことをしても無駄なのだ！　もし、このもれいびがメジャーを手にして女子をひと睨みしたら、聖のバストサイズなどはたちどころに看破されてしまう！
「……ただし、女の胸囲を測る程度で右往左往し、
　不正確極まりない計測で好しとする無様な測量部など認めない。
　私設！　真・測量部！　……構成員は私一人だ」
　淡々とそう言葉を継ぐ嶺をまじまじと見て、ほっと胸をなでおろす御鏡聖。どうやら、この無駄に厳密厳格な眼鏡１年生は、自分たち女子の味方のようだ。
　そう、この菅原嶺のろっこんを使えば、疑心暗鬼でお互いを疑い合っている、現在の女子側の窮地も覆せるかもしれない！
「ふむ、そうだな。では引き続き、この体育館に侵入・浸透している、
　測量部員の伏兵看破に、私も協力していくとしよう。
　！！　そこ──【アブソリュートメジャメント】！」
「ひこにゃん、どこなのぉ？　おーい、ひっこにゃぁあああああん！」
　瑠璃条 ベガが大声でスキップしながら、２人の目の前を通りすぎていった。
「……胸キュン☆女子を誤感知したりは、誤差の範囲内だ」
（だ、大丈夫でしょうか、この人……）
　そう一抹の不安を覚える、御鏡聖だった。