●巨乳、墜つ●


【体育館１Ｆ・中央フロア】

（あ〜あ、そら限りなくめんどくさいわよ）
　体育館の出口で桃川 圭花は、腕組みしながらしばし考えてみた。
（でも、実際問題、この変態。私にお尻向けて、蹴り上げてくださいって感じで
　出口との間に立ち塞がってるんだもの。これはリクエストにお応えするしかないわよね）
「ぎゃんっ！」
　というワケで、バストのピンチを圭花が助け出した少女は、１組の上泉 睡蓮だと名乗った。
「ていうか、（自称）軍師さんじゃないの」
「ありがとうございますありがとうございますっ！
　不肖・上泉睡蓮、危ないところを助かりましたよ。この御恩は一生っ」
　さっきまで、泣いて測量部員に噛み付きまくっていた睡蓮が、
「サイズを知られるのはともかく、直接異性の方に測られるのは流石に困りますので、
　丁重にご遠慮願っていたところでしたよー」
　まあ、「嫌いになります」とか「モテ期が遠のく」とかさんざん言ってただけなんだけど。
「そ、それにそういうのは、好きな人同士じゃないと駄目なんですから……」
　と柄にもなく自分で言ってやははー、と照れる睡蓮に、
「あらでも、じゃあ同性同士だったら、好きな人じゃなくても良いワケね？」
　と切り返す圭花。あれ？　助けられたハズなのに、何だか雲行きが怪しくなってきたぞ。
「って、えっ？（きょとん）」
「この哀れな変態をご覧なさいな。こうやって火のような涙を噴いて土下座までされれば、
　さすがにこのまま無碍にし続けることもできないわ。（今日の私ってほんとお人よしね……）
　仕方ないから、この変態に教えてあげようかしら。もちろん、あなたのバストサイズをよ？」
「わっ、わたっ、私のですか？」
「もちろん、この馬鹿には指一本たりとも触れさせないわ。
　私が測って、数字を教えるのよ。それでも同じことでしょ？」
「うーん……同性の方なら、まぁ、構いません……けど、あれれ？？」
　微妙に納得がいかない睡蓮のバストを、奪い取ったメジャーでさっさと測り始める圭花。
「ふんふん……あらまあ上泉さん、巨乳のくせに形まで良いのね」
「きょ、きょぬーって……い、いや、その……確かに少し大きめですけど、そこまでではっ」
「あら、変態が盛んに尻尾を振って、物欲しげにこちらを見ているわ。
　クゥン、だなんて……まるで、躾のなってない犬のようね。
　でも、安心なさい上泉さん。あなたの身体には指一本たりとも触れさせない……
　そう、たとえこの胸にメジャーが食い込もうが！（キュウウン）」
「きゃっ、きゃわわわわわんっ！？」
「うっかり体操服が捲れ上がろうが！（バッサー）」
「ひえっ、ひゃわわわわわわっ！？」
「ステイ。待て。おすわり。……って一歩でも動いたら即、変態には命令しておくから大丈夫よ（にっこり）」
「やっぱり同性の方でもだめっ、だめですぅー！　そっ、それ以上の御無体はどうかぁーー！」


　　上泉 睡蓮：バスト91cm（Ｆカップ）


　巨乳、墜つ！
　各個奮戦していた女子たちではあったが、司令塔の一角の陥落の報せに、衝撃走るッ！　
「ま、まさかあの神算鬼謀の天才軍師、上泉睡蓮さんまでもが！？」
「くッ、畜生……測ったな、測量部！」
「やっぱりバッドエンド確定だったか……」
　動揺を（それなりに）隠せない女子チーム。
　勢いに乗った測量部が、さらにもう一方の司令塔、大田原 いいなの元にドドッと押し寄せた！
「「シャー！　シャー！」」
「うぎゃあ！　寄るな触るな近づくなぁ！」
　この大田原いいな、本人も男の子にしか見えない容姿のくせに、実は大の男性嫌いなのである。大量の男子に囲まれパニック寸前、しかも手持ちの花火はもう尽きた。身長計をぶんぶん振り回して最後の抗戦を試みるも、ついに抵抗むなしくそのバストが測られる──「危ないですわ！」
　シャキーーンン！


　　財前 華蓮：バスト81cm（Ｂカップ）


「……うん？　儂はまだ測られておらんぞ？」
　恐るおそる目を開ける、いいな。そこに彼女が見たものは、大の字に両手を広げて毅然と立ち塞がり、その身を挺していいなを護った、金髪お嬢様の姿……？
「ば、馬鹿な……貴様はっ」
「フフ……どうやら、間に合ったようね」
　ああ、財前 華蓮だ！　Ｄカップ以上の巨乳女子を、これまでことごとく測量部の生け贄に差し出してきた、あのにっくき裏切り者が、何故ここに！？
「オホホ……何故、私が大田原さんを守ったのかって？
　胸に自信の無い私でさえＢなのですから、Ａの方は……悲惨ですわ。
　慈しみと憐れみの心を持って、その方を助けたまでのことです」
　ああ、何という自己犠牲の精神！　この華蓮はＤカップ以上の女子を憎み、Ａカップ以下の女子をもれなく助けるという、独自ルールで行動しているお嬢様だったのだ！　これぞまさに無私の心、ノーブレス・オブリージュの精神ッ！
「むむっ？　しかし野郎共の視線が何やら、おかしいような……」
　だが、その時！　男子に囲まれグイスカ上昇した、いいなの心拍数がついに１００の大台を超えた！
　ろっこん【TRANSMUTE】、発動──にょきにょきぷりぷりバッチコーイ！
　チビスケ大田原いいなが、外見年齢２０歳のアダルトな女性に変身だ！
「オーッホッホッホ！　巨乳死すべし、ですわー！！」
　くるりとアダルトいいなを羽交い絞めにして、また財前華蓮が寝返った！！
「ウギャーーーーーー！？　はーーなーーせーー！！」


　　大田原 いいな（成長時）：バスト95cm（Ｅカップ）


　巨乳、またも墜つ！　女子チームに衝撃──走るッ！！
「「ウッシャー！！」
　女子の２トップ巨乳を制して、さらに怒涛の勢いに乗る測量部サイド。
「でも大丈夫！　ここはボクに任せてっ！」
　だがそこに、外の体育倉庫まで補給物資の調達に走っていた唯一の女子、鬼河内 萌がついに体育館に帰還した！（あの浅山 小淋が校舎の窓から目撃した女子とは、彼女のことだったのだ）
　各種ボールに、石灰、跳び箱、マット、バレーボール用ネット、床用ワックス等などの輜重品の数々を、ずらりと並べて次々と女子チームに手渡していく。
「変態は消毒するもん！　石灰を被って反省しろ〜〜！」
　ワックスをぶちまけ、ツルツルにしたフロアで滑りまくる測量部員を、マットで簀巻きにしてさらに石灰地獄でまっしろに消毒。
「みんな！　このバレーネットをロープで１枚に結び合わせて！」
　結んだネットをフロアに敷き詰め、エイオーと力を合わせて地引網のようにそれを引っ張り、コケた測量部員を大量確保。
「ちょめっ☆」
　とその部員をデコピンする萌、捕虜時代にあの寝子島一のナイチチをさらしていた時とは、えらい違いの活躍だ。だが、この鬼河内萌の働きで、浮き足立っていた女子チームの結束が、再び強く固まった！
「まだまだ！　次はあたしの番だよっ」
　とさらに常盤 四月が、捕まえた部員を秘技『巻尺で亀甲縛りの刑』で吊り上げ、見せしめに。
「あっ、そのまま動かないで。今度描くＢＬ同人の参考にしよっと」
　測量部員のＢＬを妄想し、ろっこん【となりのドッペルさん】発動。２人に分身した四月と四月で、ボールネットの両端を持って、ぐーるぐるー。
「シャ？　同じ山と山が２つ……ど、どっちを測ったらいいんだシャ？」
「「ほらほら〜よそ見してるとバターになっちゃうよ〜あはは〜」」
　ネットで残りの部員男子を、分身で攪乱しては次々と、ぐるぐる巻きにしていく。
「望んでない女の子のバストサイズを測るなんて不届き者達め！
　このアタシがお仕置きしてあげるわ！」
　さらに尾鎌 蛇那伊が、手刀と高速カンチョーを引っ提げて参戦。武闘派測量部員には蹴りも交えて、次々と彼らの尻を悶絶させていく。
「アタシが健在の内は測量部の好きにはさせないわよ！！」
　戦況は、大きく女子側の優位に、傾き始めていた──。