●美脚をめぐる冒険●


【南校舎１Ｆ・１年８組の教室】

「なんだこの安っぽい勧誘ビラは……」
　１年８組の学級委員・長谷川 凜は、ビリビリと測量部のビラを破り捨てると虚空に力説した。
「なにがおっぱいだ！　山だ！　あんなのは脂肪の塊だ！
　胸はＢカップまで！　異論は認めん！！」
　こだわりの男なのである。どのへんがこだわりなのかと言うと、
「スラリとしたキレイな足に勝るものなんてこの世に無いぜ！！！」
　ああっ、何ということだろう。この長谷川凜は、脚フェチだったのだ！
「今日は女子の身体測定。体操着のハーフパンツからのびる素足は、ぜひとも拝みたい。
　美しい生足を拝みたい。舐めるように下から覗き込みたい。
　しかし、しかしだ！　俺は（自称）カッコイイセレブな長谷川様だ……
　そんな破廉恥な行為はできん。できんのだっ！（苦悩）
　この高貴な長谷川様が！！　生足を見たい触りたいなんてバレたら大変だろう！！（迫真）」
　さあ、そこでＶＩＰな彼が思い付いたのが、自分の正体を隠して、今回の測量部の騒ぎに紛れ込むことだった。そんじょそこらの庶民などにはとても真似のできない、セレブな彼が取った、あるゴージャスな行動とは……。
　高貴なる者、カリスマセレブリティ・長谷川凜の冒険が、今始まる。


【体育館１Ｆ・中央フロア】

「むぅ……シダちゃん、胸あってうらやましい……（ふにふに）」
「からん　そう思うか？　ソン　シダの山　きっとホアンリエンソン山脈
　別名トンキンアルプス　筋肉であんまやらかくない　きっと残念賞」
「そ、そんなことないんだな。おっきくてうらやましい……からんぺったんこだ」
　そんなことを言いながら、ふにふにとシダ 美穂戸のおっぱいに触らせてもらい、興味しんしんでそのさわり心地を、自分の胸と比べているのは、虎渡 からんだ。
「でも、あるとあるで肩凝りとか大変だってきいたぞ。
　それなら、からんはない方がいい、動きやすい方がいい……
　むぅ……でもかわいくても着れない服とかあるのはさびしい」
　ぶつぶつと、ストーンとした自分の体型を見下ろすからん。身軽できびきびと良く動く手足を持つ彼女だけれど、本人が言うとおり、胸はあんまり無いに等しい。
「そう言えば、シダちゃんが普段着てる服。
　あれ身体にピッタリしてて、とってもよく似合ってるんだな」
「カムオンからん　あれはアオザイ　あれ結構特殊でオーダーメイド
　何カ所も採寸してピッタリ作る　だから　うかつに太ったりできない」
「へぇ〜。だからシダちゃん、いつもそんなにスタイルがいいんだなっ」
「でもシダ　いつもはらぺこ　沢山食べる　ンゴーンおいしい
　うかつ　うかつ　けど大丈夫　その分暴れるから
　あのメジャ持ってる男子達　やっつけていいね？」
　ウズウズとステップしながら、楽しそうにシダが、乱戦の測量部員たちを指さした。
「大丈夫　ケガさせない　奴らのウェポンだけを　シダの美脚で華麗に引き裂く
　デイ　行くよ　計量前に　朝食べたフォー１０杯と
　マンゴー１０コ分を　チャラにさせてもらう」
　からんにそうウィンクすると、ズダッとシダ美穂戸は、測量部の真っ只中に跳び込んでいった！


　さて、長谷川 凜である。シダが今まさに跳び込んでいった集団の中に、彼がいた。
　スーパーの紙袋をかぶって顔を隠すという、すばらしくゴージャスな変装方法で。
　どこがセレブでゴージャスなんだと思われるかもしれないが、だが待ってほしい。このショボさはあえて、あえてやっているのだからっ。
「この、あえてのショボイ紙袋が俺様の高貴なオーラを中和し、
　セレブな凜様だと女子たちにバレてしまうのを防いでくれるのだ。
　ワーハハハハハハハ！！　俺ってば超天才だぜ！！」
　目出し穴を２つ開けただけの紙袋をかぶって、ワハハハと高笑いするセレブ長谷川。
「これでもう、どこからどう見ても俺様だとはバレまい。
　このまま測量部に紛れ込んで、女子たちの美脚を拝みまくってやるぜ！！
　あ、身長160cm以上で色白清楚系だとさらに良いな……」
　とキョロキョロ獲物を物色する美脚ハンターの目前で、ばきっどかっがすっ。
「「シャーシャーシャー！？」」
　次々にメジャーを蹴り上げられ、ワースカやられていく測量部員たちの壁、壁、壁。
「ブイブイブイー　シダみんなのソン　山守る
　シダにまかせろ　シダ　ダダ　ダダ！」
　仰天して立ち止まるセレブの目の前に、念願の美脚が現れた！


　　激突、シダ 美穂戸ＶＳ長谷川 凜。


「ギャーーーーーーーッ！？」
　悲鳴を上げる紙袋の寸前で、そのシダの蹴りがピタリと止まった。
「シンチャオ　シダのソンはかりたい？
　どうせなら　シダ自慢の鋼の美脚の太さ測れ」
　寸止めの蹴り足をピタリと維持したまま、にっこりと笑うシダ、
「ウ、ウオーーーーーー！！」
　目の前のカカト、くるぶしから太もも→ヒップへと続く、引き締まったその生足のライン！
「う、美しいっ！　色白清楚系とはちょっと違うが、
　身長は優に170cmを越える美脚っ！　むだな肉ひとつ無い、鍛えぬかれた鋼の足！」
　と思わずしゃがんで下から覗き込もうとする、その長谷川の目の前で、
　シダ　ダダ　ダダ！
　とシダキックが炸裂だ！
「ウ、ウワーーーーーー！？」
　たちまち紙袋を破り飛ばされて這々の体で逃げ出す長谷川、そのセレブの姿にキョトンと、
「あれ　今の紙袋　メジャ持ってなかったような
　まあいいか　ホンサオダウ
　ふふふ　気持ちいい　今日はどれだけ壊しても怒られないし
　シダ　悪いこなのに　いいこみたい　ブイブイブイー」
　と再びくーるくる〜とそこらを回り出し、楽しくまた暴れに行くシダなのだった。


「あ、危なかった……あやうく俺様の顔面まで、キックで吹き飛ばされるところだったぜ」
　と四つん這いでフロアをさまよっていた長谷川 凜が、今度は別の足にごっつんこした。
「むむむ……？　この生足はいったい……？」
　と見上げるセレブの視線が、上に上にと吸い寄せられる。
「体操着のハーフパンツじゃない……？　これはミニスカ……
　でもない！？　こ、この大胆すぎる格好はっ！」
「って、りり、凜君！？」
　と慌てふためく手でその視線の先をガードしたのは、１年８組のクラスメイト、姫神 絵梨菜だった。今日の彼女はいつものツインテールの髪型ではなく、ロングに下ろしている。髪を結んでいたその２つの大きなリボンが、どこに行ってしまったのかと言えば……、
　そう、絵梨菜のウェストに縛られ、なけなしの丈のミニスカート代わりに使われているのだ！
「……見た？　見たよね？」
　ぶんぶんと首を振って否定するセレブ長谷川。
「い、イヤ！　俺は何も見てないぞ！」
「絵梨菜のパンツ、きっと見えちゃったよね？」
「みみみ、見てないったら！」
「クラスの学級委員が、女の子の秘密を盗み見とかしちゃダメなんだよ？」
「だから見てないし、そもそも俺はパンツにもおっぱいにもそんなに興味がねえ！（たぶん）
　そう、俺が愛でるのはひたすらに足……！
　パンストに包まれたくるぶしに、ニーソの上の絶対領域まで……！
　そこまで！　そこまでが俺の守備範囲だからなワハハハハ！
　……うんまあ正直言うと、チラッとは見えたけど（自己申告）」
「よーし、じゃあその記憶、ぜんぶ無くすまで蹴りまくっちゃおうかなぁ（にっこり）」
「ブベラッ！？」
　超高速で放たれた強烈な回し蹴りに、長谷川の身体が軽々と吹っ飛んだ！
「測量部の悪い人は、ろっこんのミニスカキックで痛い目にあわせちゃうんだから☆」
　そう、姫神絵梨菜の【超音速美脚乱舞】は、スカート丈が短かければ短いほどその威力が増すという、キック力強化タイプのろっこん。このために絵梨菜は体操着のハーフパンツから、ミニスカ風リボンへとわざわざ着替えて、変身していたのだった。


　　激突、姫神 絵梨菜ＶＳ長谷川 凜。


「ちっ、違うんだ。俺は測量部員では……ホゲアッ！？」
「おーい凜君、私のキックで何メートル吹き飛んだか、ちゃんと測れたぁ？（手をぶんぶん）
　じゃあ後は、これからキック何発耐えられるかも測らせてあげるね！（にこっ）」
　寝子高チアリーディング部所属のチアガール、絵梨菜の脚技がセレブのアゴを綺麗に捉える！
「だっ、だから誤解なん……ゲポアッ！？」
「えへっ♪　乙女の怒り炸裂のお仕置きタイムは、まだまだこれからだよ☆」
「ドフアッ！？　ポゴアッ！？　モギョアッ！？」
　
　パンツの記憶を無くしてフロアに倒れるのを許されるまで、美脚ハンターがチアガの生足をたっぷり間近で鑑賞できたことはもちろん、改めて言うまでもないだろう。