こんな綺麗な空の下｜リアクション

こんな綺麗な空の下

　【それは、狭間ではなく】

　うと、と身体がバランスを崩して転がりそうになる。
　立井駒鳥はそこではたと目を覚ました。
　あぐらをかいたまま、うたた寝をしていたようだ。
　手には趣味で編んでいる途中だった、あと少しで完成する小さな竹かごが３つ程。

　「いかん。うたた寝しておったみたいじゃ……っと、ここは？」
　
　そこはさわめく一面の草原と、暖かな眩しくない光。
　駒鳥はそのど真ん中に、あぐらをかいて寝ていたようだった。
　おかしな話だ。
　自分はここに来るまでの間、確かに寮の部屋の中にいたはずなのに。

　今流行の「神魂」というやつだろうか。
　だとしたら、その効果は全くもって予測がつかない。

　「しかし……これは、良い天気じゃのう」
　籠を手に持ち、立ち上がった先には、大きな丘と大樹が一つ。
　まだ、誰も近づいている様子の無い丘の上にのぼって、大きく深呼吸。

　人の姿が見えない。今ならろっこんの練習をしても平気ではないか、そんな思いに駆られて、改めて丘を降りる。

　また草原の中央に立って、『広い広い草原に引かれる線のような真っ白な石の壁』をイメージして精神を集中させた。
　それは若干の硬い雰囲気を持ち合わせた白。
　想像の為の集中力はそのままに、自分の腰辺りの高さに手を翳す。

　「ここまでじゃよ」
　静止の言葉が、ろっこん発動のきっかけとなる言葉。
　草原には、腰辺りまでの高さの白い壁がせりあがる様に草原を走るかの如く、駆け抜けていった。

　駒鳥は一旦その壁の行き先を見つめていたが、しかし、それは自分の意思で止める間もなく、壁は途中で停止してしまった。
　再度、発動の言葉『静止』を唱えても、それ以上壁が伸びることが無い。
　「ふむ、これは……修練不足ということかの？」

　そう呟いた駒鳥は、手身近なところで様々な壁作りに挑戦して見る事にした。

　試しに最初は、色とりどりのレンガやブロック塀を壁に出してみる。
　しかし、実際にろっこんで出現したのは、灰色に統一された温かみも何も無いレンガ壁や、壁とは到底言いがたいレンガ一個分があちこちごそりと穴抜けしてしまっている壁ばかり。

　「ふむ、なかなか上手くいかないの……。よしっ、こんどはこれでどうじゃ」
　ふとした思い付きではあったが、駒鳥のろっこんは壁を出す事。
　壁でさえあれば、素材は関係無いのではないのではないかと思った結果──

　目標『樹の蔦で編みあがって出来た壁』
　──結果『足元の草が編み上がって出来た軟弱な壁』

　目標『土壁』
　──結果『草混じりの土で出来た壁が足元程度ほど』

　「う～む。どれも上手く行かんの……
　厚さもまちまちじゃし……これは要練習という事じゃな………」

　そして、あちこちに出来上がってしまった壁を消しながら、しみじみと呟いた。
　「誰かを守る壁を作れるようになりたいのう、誰かとの間に作らんように」
　
　出した全ての壁を消しながら、手元に３つのあと少しで出来る小さな竹かごがある事を思い出した。
　いつの間にか、樹の側にいは人がいる。人数は…１，２，３人……自分の部屋に持ち帰ってもその数が増えるばかりで困る一方だったところだったのだ。
　そう言えば、猫曰く、
「お前さんのような独り身には関係ニャいけれども、あの丘の上の樹には二人以上で揺すると綺麗な石の入った木の実が入っているニャ。相手がいれば試してみればいいニャ」
　と……極めて無礼な事を言っていたが、猫の図星で樹を揺するような相手は今の駒鳥にはいなかった。

　──しかし、あそこの丘の上にいる３人には、樹を揺するならばきっと小さな竹籠でもあれば便利だろう。

　持って行って見るか……駒鳥は何気なく足を向けることに決めた。
　その籠は、後に降って来た綺麗な石の入れ場所、置き場に大変重宝されたと言う。