こんな綺麗な空の下｜リアクション

こんな綺麗な空の下

　【蒼穹】

　二本足の猫はこう言いました。
　『まあ、のんびりしていくニャ』
　「……いきなり、んなこと言われてもな……」
　いきなり草原と丘と樹しかないような空間に放り出されて、二本足の猫に一言それだけ告げられていた如月庚は、遠くに響く歌を聴いていた。

　「(何人位来てるんだろうな)」
　何と無しにそう思い、遠くで黒依アリーセの歌が終わり、肉球をぺしぺしと合わせて拍手を送っている猫が遠くに見える。
　それと丘には複数の人の姿が。

　それらの人々と敢えて一緒に行動する意味を見出せずに、立ち上がって見上げる広大な景色に感動よりも逆に、どうして良いか分からず途方に暮れて。
　適当に歩いては見たものの、歩くのにも疲れ、庚は広々と障害物の無い草原に寝転がった。

　──目に入るのは、どこまでも突き抜けるような『蒼穹』とも呼ばれる空の色。
　ふと、何かが、思考の端に浮かぶ。
　そしてあぶくの様なその思考は明確に意識の上に浮かび上がった。
　
　『何故、自分のろっこんはこんな空の色をしているのか。
　そして、何故──破壊に特化した力を持ったのだろう』と……

　こんなにも美しい青の色は。
　しかし、『あの日』も同じ色をしてたのを思い出す。

　悲しいほどに、突き抜けた蒼穹の空。

　それは、両親が事故で死んだ日。
　慟哭代わりに天を仰いだ空。
　それは、庚を突き放しているとしか思えない程、透き通った蒼い蒼い色をしていて──

　「………………」

　額の傷跡に手を当てて、指でなぞる。
　発動条件を満たしたろっこんは、静かに今の空の色を纏って庚の前に現れた。

　仰向けに寝そべったまま、庚はそれをそっと天空の色と重ねて見せる。
　綺麗に合致したその色は。
　庚に溢れんばかりの悲しみと、やり場の無い怒りとを、明確な形で思い出させた。
　「……………」
　そう、それは彼の体現。
　無理矢理に納得させようとして失敗した怒りと悲しみの具現のカタチ。

　「……結局俺は、まだ納得出来てなかったのだ」
　自分に向かって静かに告げて。立ち上がって拳を振り払い、ろっこんを解除する。

　今更、それは悲しみに押し潰されたり、怒りに身を任すには、時間が経ち過ぎていたが。
　長い溜息は、ただ深く。
　その傷が癒される事はない事を静かに物語っていた……

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