夏だ、きもだめし委員会！｜リアクション

夏だ、きもだめし委員会！

●きも先輩閉じ込められる

　さて。
　これで校内きもだめし大会は無事に終了となったわけだが、話はもう少しだけ続く。

　後片付けを終えた音楽室。
　そこに、きも先輩がひとり閉じ込められていた。

《やぁキモ君、ゲームを始めよう》

　奇妙な裏声が響く。

《そこを出るのは簡単だ。
　モニターに流れる『映画』に
　出るための鍵の場所が隠されている。
　チャンスは一度なので目を逸らさぬように。

　本当の恐怖を乗り越えられるかな？》

　モニターが点いた。げに恐ろしきホラー映画が再生される……。

◇

　隣の音楽準備室には、この様子を見守るふたりの少年の姿があった。
　とっくに百目のコスプレを脱いだ雪見大福は、やれやれとため息を吐く。
「きも先輩を閉じ込めて怖がらせようだなんてやめとけって。後が面倒くさそうだ……」
　だが、雨崎荒太郎はふんすっと鼻息荒くいった。
「いや、ぼくはやるよ！　きも先輩には、めいっぱい怖がってもらわなきゃ！　これもぼくらをタダでこき使った報いだよ！　あのホラー映画、常人には直視無理だからねー。終盤シーンで、鍵はミニカーの中にあるってわかるんだけど、それまで耐えられるかなー？」
　くっくっくっと笑う座敷童子。
「怖がらせていいのは、怖がる覚悟のあるやつだけがんす！」
　妙に気合が入っている。大福は、ふわあ、と大あくびをした。
「えげつねぇな……てかコータローけっこう怒ってる？　まぁいいけど、ほどほどにしておけよ。先輩があんまり怖がるようなら、とっとと出すからな。俺もさっさと帰って寝たいってのもあるし」
　そういいつつ、付き合いのいい彼はヘッドフォンをつけ音楽に耳を傾けはじめた。きも先輩の様子を、ろっこん＜リスニング＞で探るためだ。
「どう、どう？　怖がってる！？」
　荒太郎が興味深々に聞いてくる。だが、大福は耳を疑った。
「『やっふぅぅぅ！』とか『いぇぇぇい！』とか、なんかはしゃいでんだけど……」

　そのとき、そおっと準備室の扉が開いた。大福と荒太郎はドキッとしてそちらを見る。
「あのぅ……」
　御巫時子だった。
「為史さん、こちらにいらっしゃいますか……？」
「いるけど取り込み中だよ。何かなー？」
「はい、じつは……うっかりこれをもって来てしまいまして……」
「ぎゃあああああ！」
　荒太郎は大福にしがみついた。微笑んだ時子が差し出したのは、骨格標本の肝臓だったのだ！
「お、お願い！　それは理科室に返してきて！」
　荒太郎が懇願すると時子はやや残念そうに肝臓を手に去って行った。
　間もなく、きも先輩が音楽室からスキップで出てきた。
　ホラー映画を楽しく鑑賞し謎も解けて鍵を手に入れたきも先輩は、荒太郎と大福を見つけると、まるで十年ぶりの友人に再会したみたいに嬉々とふたりを抱きしめこういった。
「ありがとぉぉぉ！　最高だったよぉぉぉ！　もう一回やろう、さあ君たちも一緒にぃぃぃ！」

　――翌朝、荒太郎が戻らないと連絡を受け探しに来た西野町かなえが見つけたのは、夜通しホラー映画を楽しんでツヤッツヤになったきも先輩と、眉間に深い皺を刻み苦悩の表情で眠る大福と、真っ白な灰になった荒太郎の姿だったという――。

このページにイラストを設定する