厳正な抽選の結果、貴方様がご当選されました。｜リアクション

厳正な抽選の結果、貴方様がご当選されました。

●お食事は緊張して

　白いショールに皺が寄るほど、塔尾松生はショールを強く握りしめていた。
　というのも、高級レストランなんて来たことはなく、堅苦しいマナーというものが苦手で――要するにちょっとした緊張状態だった。
　のんびりとしている彼女だから、意外と思われるかもしれないが、彼女はけっこう緊張しやすい質らしい。
　おじおじホテルに入ればドアマンに驚き、エレベーターから出れば執事風のウエイターに驚き。
（タダメシは嬉しいけど、やっぱり堅苦しいのは苦手だわ）
　と、窮屈そうにため息をついた。
　白と青の上品なワンピースに、小物はすべて白いものを合わせて、ぱっと見はこの空間に溶け込んでいるけれど、本人は知る由もない。
　この洋服も、ホテルのレストランだといつもの洋服――特別派手なわけでも、地味でなわけでもないが――ではダメだろうと思って、ずっと袖を通していなかった服を引っ張り出してきたのだ。
　実家の母親が、カバンとセットで送ってきてくれたワンピースだ。
（テストも終わったし、せっかくぱーっと美味しいもの食べようと思ったのに）
　ますます窮屈になってしまうだろう、松生はきゅっと肩をすぼめた。
　やっぱり、帰ろうかな。
　そう踵を返すと、たんぽぽのように鮮やかで柔らかそうな金髪が目に入った。
「あ……」
　頬がカッと熱くなる。
　松生は迷って、悩んで、考えて――彼に声をかけた。
「ひゅ、日向さん！」
　あこがれの人を目の前にして、声がころんとひっくり返った。
（……は、恥ずかしい）
　松生は思わず頬に手を当てる。
　日向透はゆっくりと顔を上げ、眩しいばかりの笑顔を浮かべてくれた。
「おや、塔尾さんこんにちは」
「こ、こんにちは」

　入り口で出会ったところという彼らより一足先に、橘千歳は御剣刀と食事を楽しんでいた。
　その中で立食式とは、厄介だと千歳は思う。
　それはつまり、常にドレス姿が人の目につくことを意味していて、千歳はため息をつきたくなった。
（私にはドレスとかあまり似合わないし……）
　料理を取りに行こうと歩くたびに、スカートの裾が揺れる。
（……でも、刀君に恥をかかせられないものね）
　けれど千歳の刀への気遣いは抵抗感に勝るのだ。
「うん美味い！　これも美味いな」
　真っ先に肉に向かい、ステーキをもう二枚平らげてしまった彼のために、千歳はドレスを纏っている。
　その感情にまだ名前はないけれど。
　刀は口いっぱいに肉を詰め込んで、千歳をじっと見つめてくる。
「刀君、そんな一杯とらなくても、すぐになくならないから」
　言いながら思わず笑ってしまった。
「千歳のも美味しそうだけど、それ何？」
「え？」
　刀がひょいと千歳のお皿から取っていく。
　そして千歳が口をつけたお刺身を美味しそうに頬張った。
　瞬間頬が熱くなる。
「あんまり食べてないけど、そういえば千歳ってどんな食べ物の好き嫌いとかあるのか？」
　刀がハッとしてそんなことを尋ねてくるが、千歳は戸惑いを隠せない。
「そうね、フォアグラ？　食感がダメだったわ」
「へーっ……」
　なのでぷいと顔をそむけて、話を逸らした。
「刀君は辛いものが苦手なのよね？」
「う、ん」
　千歳は実は辛いものが好き。けれど舌がおかしいなんて思われたら……。
　そう思うと、それ以上は言えなくなった。
　