厳正な抽選の結果、貴方様がご当選されました。｜リアクション

厳正な抽選の結果、貴方様がご当選されました。

●お食事と慣れ

　場に合わせて髪をまっすぐに伸ばす男がいれば、逆に髪を巻く女もいた。
　普段は水分を含んでいるかと思うほど艶やかな髪の大部分は、綺麗にまとめられている。
　そこからこぼれ落ちた毛が、ゆるやかにあるいは気だるそうに白い首筋に沿うようにして垂れていた。
「……ふ、……」
　弘明寺能美子からは、ふいにため息がこぼれそうになる。
（結局誰も誘えないまま当日が来たわね）
　こういった催しには慣れている。
　慣れているため、無意識にその場に相応しい仕草は内から出てくる。
　けれどだからこそ、余計に心との差が辛かった。
　そんな思いさえも飲み込んでしまう濃紺色のワンピースは、能美子の体に合わせて曲線を描くマーメイドタイプのものだった。
　食事の場だからと配慮して、華美な飾りはなにひとつないけれど、彼女にはそれで十分なのだ。
「貴方がここの料理長？」
　その証拠に料理長からひとときの間、笑みが剥がれ落ちてしまった。
　それから慌てて彼は能美子に頭を垂れる。

　八神修が近くのテーブル席に腰掛けてからしばらく経つ。
　それに耐えかねたというように椿美咲紀は「ぶ、ぶちょー？」と声をかけたきた。
　美咲紀が着ているネイビーの無地のワンピースの胸元に咲いた、淡い黄色い花が不安そうに揺れた。
「取りに行かないの？」
「ん？」
　父親の仕事の都合で社交的な場に出ることが多かった美咲紀と違い、修はそういう場にはあまり出ないタイプのお金持ちのご子息。
　給仕されることに慣れているため、
「あ、自分で取りに行かなくてはならないのか」
　ビュッフェがなにかを知っていても、癖が出てしまったのだ。
　『先生』のお茶目な一面に、美咲紀は目元を笑みで緩ませて「最初は慣れないよね」
　美咲紀も根っからのお嬢様という意味では彼とかわりないのだが。
　ふたりは笑い合って、料理を取るために席を立った。
　ひと通り料理を確認して思い思いに取っていく。
「……鰻は養殖だな」
「え？　ぶちょーそんなことまで分かるのです？」
「わかるもなにも、別物だよ」
　修は養殖鰻、作りおきの刺し身や天ぷらを避けながら、小さくため息を付いた。
（高級店と聞いていたが、庶民的な店だな）
　それならそれでいいのだが……。
　そう思いながら食べられそうなものを更に取り分けていると、
「今度は、夜にお邪魔させてもらいたいものね」
「ありがとうございます」
　ちょうど能美子が料理長と会話を終えて離れていくところだった。
「なるほど料理長か」
「挨拶しておきます？」
「そうだな」
　修は簡単な挨拶を済ませてから、ふと疑問を口にしてみた。
「そういえば和洋折衷な料理が多いようですが、理由を伺っても？」それから付け足す「ここはフレンチだと聞いていたので」。
　料理長は虚を突かれた風な顔をして、「お恥ずかしい話なのですが」と言ってから説明してくれた。
　曰く、夜は通常通りの高級フレンチだが、休日の朝と昼はどなたでも気軽にと、こういったお料理を出すことにしたそうだ。
「なるほど……」
　修は小さく頷いて、食事を楽しむことにした。