縁の幻路｜リアクション

縁の幻路

　図書館は広く、迷路のようだった。ももと小萩は高く聳える本棚に苦戦しつつも、二冊並んだ同じような題名の本を見つけた。ももが『あなたのつくる物語』と言う題名の本を、小萩が『あなたがつくる絵本』と言う本を手に取り、パラパラとページを捲る。本の中身は真っ白で、二人は図書館を散策して筆記用具の置かれた机を見つけると、椅子に座って中に書き込み始めた。
　もものお話は、お城にいるのに飽きてペットの猫と冒険に出るお姫様のお話、小萩のお話は、ふわふわした可愛い二人の女の子が美味しいお菓子を探して冒険をするお話だった。小萩のものは絵本だったため、ちゃんとイラストも描かれている。可愛い二人の女の子は、小萩とももがモデルだった。
「ももさんのお話、面白いです！　これ、シリーズ化したら良いと思いますよ」
「小萩ちゃんの絵本も面白いの。イラストがすっごく可愛くて」
　一頻り互いの本を褒めあった後で、小萩は自分の書いた絵本に描かれた美味しそうなケーキを見てゴクリと喉を鳴らした。
「小萩、なんだかおなかが空いてきました」
「そうだね、僕もちょっとお腹が空いてきたかな」
「確か雑貨屋の近くに喫茶店があったと思います。行ってみましょう」
「うん。あ、でもこの本ってどうすれば良いのかな？　持って行って良いのかな？　それとも、返した方が良いのかな？」
　悩む二人の近くから微かに声が聞こえ、ももと小萩は顔を見合わせると立ち上がった。声を頼りに本棚の間を歩いて行くと、武道と昴が数冊の本を片手に小声で談笑していた。
「じっくり読みたいから借りて行きたいけど……返しに来られるかわからないから無理かな」
「そうですね。僕も資料を借りて行きたいですが、またここに来る事が出来るとは限りませんからね」
　小萩とももに最初に気づいたのは武道だった。ニカっと人懐っこい笑顔を浮かべ、片手を上げる。
「こんにちは☆俺は寝子高２年の志波武道、こっちの子は１年生の鷺守昴君。何ちゃんかきいても良いかな？」
「１年の本条小萩と花風ももさんです。この図書館って、やっぱり本を持ち出しちゃ駄目ですよね」
「多分そうだとは思うんだけど、何か借りたい本でもあるの？」
　武道の問いに、小萩とももが同時に持っていた本を開く。
「自分で作る本なの。これって、返したほうが良いのかな？」
「うーん……本自体は図書館のものだし、持って行っちゃ駄目な気もするけど、でも自分で作る本となるとどうなのかな……」
「貸し出し自体はしているみたいだ」
　不意に声をかけられ、四人は振り返った。そこには貸し出しカードを手にした修が立っており、申し訳なさそうな顔で「話の内容が聞こえて……」と一言添えると武道に軽く頭を下げ、簡単に自己紹介をした。
「図書館の受付のところに置いてあったんだ。借りたい本の題名と作者名、日付と自分の名前を書いて木の箱に入れるらしい」
「やっぱり図書館なんだな。だが、返しに来れるかどうかは分からないのに借りて行って良いものなのか……」
　困惑する昴に、修が更に言葉を続ける。
「悪いと思ったんだが、貸し出しカードを調べてみたんだ。返却に来た人もいるみたいだが、ほとんどは返却された形跡はない。ただ、貸し出されているはずの本自体は図書館に置いてあった」
「期日が過ぎたら勝手にこの世界に戻されるって事なんですかね」
　小萩が不思議そうな顔で、自身の持っている本に目を向ける。
「もしくは、借りてもすぐに本が補充されるか、だな。少なくとも、本が持ち出されて困ると言う事はないようだ」
「……返しに来た人がいるって事は、もう一度ここに来る事が出来ると言う事だ。多分、その方法が書かれた本もどこかにはあるだろうし、少し調べてみよう。図書館の利用案内が書かれた冊子なんかが貸し出しカードの近くになかったか？」
　昴の問いに、修が「あった」と頷く。
「あの……その方法、調べてもらっても良いですか？　小萩もももさんも、ちょっと……お腹が空いちゃって、喫茶店に行こうかなって思ってるんです」
「ここ、喫茶店もあるの？　俺も行きたい！」
　武道が顔を輝かせ、小萩が胸を張りながら「雑貨屋の近くにあったのを見たんです！」と自慢気に言う。
「分かった。調べておくから、本条さん達は喫茶店に行って来ると良い。分かったら連絡するから」
　今はスマホと言うものがあり、アドレスさえあればすぐに連絡が出来る。けれど『ハイテクは怖いです』の小萩は、薄い微笑を浮かべたまま固まってしまったのだった。

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