Un peluche importante｜リアクション

Un peluche importante

　何時渡そうか、ずっと考えていた。どうやって切り出せば良いのか分からず、そもそも渡せるのかも分からなかった深雪だったが、教室が終わって外に出た後、そっと優妃を呼び寄せると作ったばかりの黒猫のぬいぐるみを手渡した。
「兄貴にあげるんだったら、お前の分無くなっちまうと思って作ってみた。……あんまり出来よくなくてごめんな」
「え？　私に……？」
「俺の白猫と対になるようにしてるんだ。飼い猫のサティがモデルなんだけど、良かったら今度見に来いよ」
「ニャンちゃんは好きなの。深雪さん家の子は、サティちゃんって名前なんだね。……ありがとう、すっごく嬉しい」
　優妃が、ギューっと黒猫のぬいぐるみを抱き締める。嬉しそうな表情は幼く、思わず頭を撫でそうになる手をグッと堪え、深雪は綺麗にラッピングされた香水を手渡した。
「優妃は、香水とか興味あるかわかんねぇけどさ、お前をイメージして調香して貰ったんだ」
　開けても良い？　と、首を傾げる優妃に頷く。滴のようなドロップ型のボトルに、ピアノのラベルをしたベビーブルーの香水ビンは可愛く、雨をイメージした香は、ショパンの曲が似合うような上品さを漂わせていた。人見知りが激しい彼女が、少しでも前向きになれるように。そんな願いを込めて調香してもらったのだが、それを言葉に出すのは恥ずかしくて、言い出せない。その代わりに、深雪は右手を優妃の前に差し出した。
「この怪我、自分で切ったんだ。……心配かけたくなくて、優妃には知られたくなかった」
　今、深雪はピアノが弾けないでいる。それが、こんなに苦しい事だとは思わなかった。優妃の小さな手が、そっと深雪の手を握る。
「何で切ったのかは、聞かない。でも、怪我はして欲しくないの。深雪さんのピアノ、好きだから。……あのね、プレゼント、凄く嬉しいの。言葉にするの、苦手で、上手く伝わらないと思うわ。でも、本当に嬉しいの。私の誕生日は、祝われないから、プレゼントって、あんまり貰わないの。少し前に、クラスの子に絵を貰ったくらいかな？」
　一生懸命頑張って喋る優妃の必死な顔に気をとられて、危うく聞き逃しそうになった。
「誕生日が祝われないって、どういうことだ？」
「……私にも、分からないの……」
　黒猫のぬいぐるみを抱き締める優妃は俯いていて、表情は見えなかったが、小さく震える肩は泣いているように見えた。

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