暑いしだるいし、モウヤメミ～ン！｜リアクション

暑いしだるいし、モウヤメミ～ン！

◇マイペース×マイペース

　新井すばると神野美野梨はセミの目撃情報のあったマンションの敷地内に来ていた。
　時折、遠くからそれらしい鳴き声が聞こえるのだが、このひらけた空間では耳栓を外さずに方角を探るのが難しい。
　ここに来て、二人のセミ探しは暗礁に乗り上げてしまった。
『あの人は？』
　どうしたものかと考えていた時、美野梨は先客がいるのに気がついた。

　宇佐美実はうさみみを耳にあて、必死に方角を探っていた。
　手にした鞄とうさみみの間にはピンと紐がはられていて、意識が遠のくと鞄の重みでうさみみが外れるようにしてある。
（俺が濡れ衣で捕まる前に、あのセミを捕まえちまわないと……）
　その一心でモウヤメミンのいる方角を辿ってきたのだが、実の捜索も行き詰っていた。
　これ以上近づくと、探知する前に鳴き声にやられてしまいそうなのだ。

　実の姿をみて、美野梨がすばるに意見を求める。
『何をしているのかしら』
　耳栓をしている間はジェスチャーでやりとりする手筈だったが、いかんせんぶっつけ本番すぎた。
　全く打ち合わせにない仕草で、すばるは意気揚々とジェスチャーを繰り広げていく。
　本人の言おうとしたことを要約すると、こんな感じだ。
『あの人楽しそうだねー。うさぎって耳も嗅覚もすぐれてるからこういう時助っ人にほしいー、あそーれハイレグッ』
　ジェスチャーの後半が複雑な上に、アドリブで余計な動作を混ぜられては理解しようがない。
　最後に往年のギャグをかました、という事だけは美野梨に伝わった。
『何してるのか聞いてみるー』
　反応も待たずに歩いていくすばる。実の方へひょいひょい近づいたと思うと、もう耳栓を外して声をかけている。
　好奇心にかられた時の彼は常時こういうテンションなのだろうか。
（鳴き声にやられたのかしら……いえ、いつも通りね）
　冷静に分析しながら、美野梨は後を追うのだった。

　神経を研ぎ澄ませていた実は、突然声をかけられて飛び上がった。
「やほー、うさぎさん。何か聞こえるー？」
「ええと……俺、のこと……だよな……？」
　念のため自分を指さして確認すると、そうだよーとすばるが手をひらひらさせた。
「面白いことしてるなーと思って」
「私は探し物をしてるのかと思ってたけれど」
　追いついてきた美野梨が違うかしら？　と首をかしげる。
「まあ……そんなところ、かな……」
　間違ってはいないので曖昧にそう答えたが、言い終える前にあの声が頭のなかに響き始めた。
　さっきは焦って集中を欠いていたが、今度は方角がわかる！
「いた……あのセミ……あっち、だ……！」
　頭を抱える実をみて、美野梨とすばるが顔を見合わせる。
　彼の探している物がわかったのだ。
「目的は同じのようね。行きましょう」
　この場は手を組んだ方が早そうだ。用意した耳栓は足りないが、実の耳を手で覆って隙を補う。
　二人三脚ならぬ三人四脚。ゴールは目前まで近づいていた。