暑いしだるいし、モウヤメミ～ン！｜リアクション

暑いしだるいし、モウヤメミ～ン！

◇困った時はおたがい様

　一連の騒ぎを知って、恵御納夏朝は桜花寮を飛び出した。
　彼女の手には調達したばかりの網と虫カゴが握られている。
（このままじゃ、大変なことになっちゃう……）
　モウヤメミンを放っておけば、大勢の人が恥ずかしい姿を晒すことになってしまう。
　急な外出だったが、時間が許すかぎりの対策はしてきた。
　ヘッドホンで耳を覆い、スマートフォンに繋いで音楽を流す。
　それから万一の時、具体的にはセミになってしまった時のパンチラ予防策としてスパッツを着用済だ。

　ウェーブがかった髪の下、額に汗の滴がうかぶのをハンカチで拭う。
　暑いのは苦手だが、今は我慢だ。
（この近くの公園でも、目撃情報があるね……）
　夏朝が異様な音に気づいたのは、その時だった。

　代表格のミンミンゼミに、やかましさでは劣らないクマゼミの声。
　強敵モウヤメミンの声をかき消そうと、雨寺凛は彼女が知るかぎりのセミの声をろっこんの力で浴びせていく。
（こんな民家の近くで鳴かれたら、住んでる人たちまで変になっちゃうよ！）
　そう思って拾った木の枝で追い払おうとするのだが、高い位置に止まっているモウヤメミンには届かない。
　凛もジャンプしてみたりと奮闘したのだが、やがて集中力が途切れはじめた。
（もう……限界、みたい……みーん）

　あきらめかけたその時、凛の頭上で何か硬いものが木を叩いた。
　続いて虫の飛んでいく羽音が聞こえ、モウヤメミンの声はそれを境にやんだ。
「君、大丈夫……？」
　振り向くとそこには夏朝の姿。音に気づいて駆けつけ、網で追い払ってくれたらしい。
（ありがとう……もう少しで私、変な人になっちゃう所だったよ……！）
　凛はそう喋ったつもりだったが、この時彼女はろっこんの解除を忘れていた。
　感極まってセミの声で泣きつく凛に、夏朝はどうなだめるべきか、内心迷っていた。