セミ。夏の風物詩に数えられる昆虫である。
花火みたいな華やかさは持たないけれど、セミの声を聞いて夏を感じる人も多い。
このなじみ深いセミが、あんな騒ぎを引き起こしてくれるなんて、ボクらは思ってもみなかった。
放課後の帰り道を、
多喜 勇生は歩いていた。
午後の日差しはアスファルトを容赦なく焼き、心なしか学生カバンの重みも増したように感じる。
「今日も暑いねえ……おっと」
よろよろと歩いていたところ、足元で例ののたうち回る音が聞こえて、勇生はそれを踏まないようそっと歩道の脇へとそれた。
案の定、一生を終えつつあるセミが最後のあがきをしていた。周囲にはすでにアリが数匹、獲物の品定めに集まってきている。
「セミも大変だねえ」
近くの木からは、まだ元気なセミたちのしゃあしゃあ鳴く声が聞こえてくる。
セミの大合唱、路上に停められた車、背広姿のサラリーマン。
これぞ夏。いつも通りの光景だ。
でもその中に見慣れないものを見た気がして、勇生は今しがた通ってきた道を振り返った。
背広姿のサラリーマン。そこまでは何もおかしくない。
背広姿の中年サラリーマンが、誰かさん家の塀にぶらさがっていた。
両腕で体を必死に支え、野太い声で「みーんみーん」と鳴いている。
どう見ても、ナニカがおかしい。
5秒ほど考えてみたけれど、フォローできるような考えは浮かばない。
疲れてるのかな。人間たまには遊びたくもなるよね。
むりやり自分を納得させて歩くこと数十メートル、
今度は喫茶店の店主が窓ガラスにべったりと貼りついていた。
お店の内側からガラスにキスをしたまま、やる気なさそ~にパクパク口を動かしている。
今日の寝子島はナニカがおかしい。
この日の寝子島では、似たような怪現象があちこちで起こっていた。
「やる気が起きねえんだみーん」
工事を放棄して電信柱にしがみついてる電気会社の職員。
「○○ちゃんってマジ俺好みーん」
ケーキ屋の看板人形(幼女)に抱きついたデート中の彼氏と、ショックを受けて逃げ去っていく彼女。
異変に気づいた一部の人が、ねこったーに断片的な情報を流していった。
そして、おかしな人たちの目撃情報が広まるのと同じ時間帯、
今度は
「変な声のセミ」というワードがねこったーのトレンドに加わった。
一体何が起こってるんだろう。
勇生が首を傾げていると、バス停近くの木に止まっていたセミがけたたましい音量で鳴きはじめた!
「エッホン、アァ~、イヨッ! メンドクサ~~イ♪ メンドクサ~~イ♪ モウヤ~メ~ヤ~メ~ヤ~メ~、ミィ~~~ン……♪」
このセミ、なんだか変だ。
鳴きはじめの部分は咳払いっぽいし、羽はぼんやり赤く光ってて明らかにフツウじゃない。
ツクツクボウシのようなリズムで鳴いてるけれど、どうやっても「メンドクサイ」とか「モウヤメミ~ン」と言ってるように聞こえる。
明らかにヘンテコリンな鳴き声にしびれを切らし、バスを待っていた若い男性がどなり声をあげた!
「うるさーい! さっきから変な鳴き声ばっかり聞かせやがって! も~おれはぁ~我慢できないみーん……?」
最初の剣幕はどこへやら、尻すぼみな声とともにバス車両の外側に抱きつく男性。
あっけにとられる勇生をよそに、みーんみーんと口ずさむ男性をのせてバスは発車してしまった。
どうやら、このセミには神魂が宿ってしまったらしい!
あの変な鳴き声を聞いているとだんだんやる気を失って、
さっきの男性のように変人たちの仲間入りをしてしまうみたいだ。
早く捕まえるなり何とかしないと、街がフツウでない人たちであふれかえってしまう!
「どうしよう。とにかく、誰かに知らせなくっちゃ……みーん?」
怪異に立ち向かう決意をしたそばから、勇生もまたやる気を奪われていくのでした。
らっかみ世界の夏、いかがお過ごしでしょうか? 詩帆ミチルです。
寝子島は夏だけでなく、よろしくないトラブルまで迎えてしまったようです。
セミになって、すっかりやる気をなくしてしまったあなた!
アイスを食べたりビーチで水着ににへにへしたり、夏のお楽しみはまだいっぱいあるはずです!
夏をエンジョイするためにも、皆でやる気をとりもどすのらっ。
■神魂の宿ったセミ(仮称:モウヤメミン)
こんな感じの、オッサンを思わせる野太~い声で鳴いています。
「ウオッホン、ハァ~チョイチョイ、メンドクサ~~イ♪ メンドクサ~~イ♪ モウヤ~メ~ヤ~メ~ヤ~メ~、ミィ~~~ン……♪」
神魂の影響でぼんやり黄色に光っているので、見た目でも区別はつきます。
独特の鳴き声から、ねこったーでは「モウヤメミン」というあだ名がつき始めている様子。
全部で何匹いるのかはわかっていませんが、寝子島小・中学校から高校付近の市街区一帯、
この地図でいえば<F-7~K-9>あたりに出没しているようです。
■セミの能力について
モウヤメミンの鳴き声には聞いた人のやる気と判断力を失わせ、
『近くのものにしがみつき』『セミの鳴き真似をさせてしまう』
という厄介な力があります。
この鳴き声が聞こえてくる限りはどんどんやる気がそがれて
やがては皆するべきことを放棄してしまうのですが、
少しの間なら理性を保って行動することもできます。
鳴き声が聞こえなくなって一定時間がたてば、正気に戻ってふだん通りに動けるようになります。
(ガイド中に登場した多喜 勇生様も、任意のタイミングで復帰できます。
ご登場いただきありがとうございました!)
■その他のヒント
じつは神魂の影響は一時的なもので、日が沈む頃にはセミも人も元通りになります。
ですが、捕まえたり追い払ったりして鳴き声が聞こえないようにできれば、
日没を待たずに解決できるかもしれません。
■お願い
ご自身のキャラクターについて、こういう描写は控えて!という
NG要素があれば、遠慮なくお伝えください。
セリフ中で「!」を使わない、大切なペンダントを片時も手放さない、など。
皆様のキャラクターをいきいきと描くためにも、ご協力をお願いします。
次はリアクションでお会いしましょう。
個性あふれる楽しいアクション、お待ちしてます!