暑いしだるいし、モウヤメミ～ン！｜リアクション

暑いしだるいし、モウヤメミ～ン！

◇迷惑なセミにご用心

　放課後。制服から私服に着替え、雨寺凛は街へとくり出した。
　ひさびさの自由な放課後、頭の中はすでに音楽のことでいっぱいだ。
「たまには新譜もチェックしたい、な……！？」
　ところが桜花寮の門を出た途端、目の前のおかしな光景に凛は固まってしまった。
　寮の壁に作業着姿のオジサンがぶら下がっていたのだ。
（何、あれ……まさか覗き？）
　訝しく思うものの、壁におでこを突き合わせた格好では部屋を覗いてるわけではなさそうだ。
　不審者には違いないので、しのび足でその場を通り過ぎる。

　寮の前を離れて数分後。ねこったーの情報を見て、凛にもやっと事態が飲み込めた。
「そっか……変な声のセミのせいでああなっちゃうのか」
　先のオジサンへの不信感は残るけれど、近くに問題のセミがいるなら凛にとっても他人事じゃない。
　気をつけないと……そう思った矢先のことだった。

「エッホン……チョイチョイ、メンドクサ～～イ♪　メンドクサ～～イ♪」

　すぐ近くの公園の木からおかしな鳴き声が聞こえはじめた。
　鳴き声の特徴はねこったーで噂のセミとぴったり一致する。
「やばっ、もしかしてこの声……！」
　気をとられまいと必死で抵抗するが、声を聞くうちに意識が散漫になっていく。
（だめ……力もやる気もわいてこない。でも、もしかしたら）
　あの声をかき消せば、少しは正気を保てるかもしれない。
　あんな恥ずかしい目にあいたくない――その思いが体を動かし、凛の手が右耳に触れる。
「本物の夏の風物詩は、こーいう音でしょーが……！」
　思い浮かべたのは、今まで聞いた中で一番騒々しかった蝉しぐれの音。
　ろっこん『虚偽声楽（フェイク・ショウ）』が発動し、凛ののどからセミの大合唱の音があふれだした！

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