はじめてのおさぼり？｜リアクション

はじめてのおさぼり？

●町中を駆け回って探してくれようぞ。

「ぬおおお！　私の見舞いを受けるがいい！」

　所変わって、桜花寮。
　左腕にクマの縫いぐるみの『マリアンヌ』、右腕に道端で摘んだ野の花を握り締め、鈴木修一郎は女子寮の廊下を、突っ走っていた。
　本来は男子生徒は、入れないエリアなのだが緊急事態なので、仕方ない。

　……と、思っているのは修一郎だけなので、当然だが周囲の理解は得られていなかった。

　突然の乱入者の出現に、行く先々で女子生徒の悲鳴が上がる。
「何の騒ぎなの？　皆、大丈……！？」
「あ、マサエさん！　男子がいきなり入ってきて……！！」
　異常事態を察知して、桜花寮の管理スタッフのマサエさん（４７歳）が飛び出して来た。
　その瞬間、目の前を爆走する修一郎！
　風圧で捲れ上がった、スカートを押さえるマサエさん。
「マ、マサエさん、しっかり！」
　女子生徒がマサエさんを、励ます。我に返ったマサエさんは、果敢に修一郎を追いかけ始めた。

「こらー！　待ちなさい、何をしてるの！！」
「フハハハハ！　野々や七夜も、私と同じ桜花寮住まいのはずなのに、おらんではないかっ！」
　級友達の姿を求め、暴走していた修一郎が、突然キキーッと立ち止まった。
　修一郎を捕まえるため、負けじと全力疾走していたマサエさんが、これにはたまらず背中に激突してひっくり返った。

「さては……」
　それを意に介さず、むこうを向いたまま修一郎が呟く。
「ええい、やはり事故のセンであったか！　この私の友である以上、無駄死になどさせてやらぬぞおおお！！」
　尻餅ついたままのマサエさんの手に、強く握り締めすぎてくったりした花を押し付けると、修一郎は再び迷走を始めた。
「え、ちょっと……！？」
「許せ！　何らかのトラブルにより、学校に来れぬであろう我が級友たちの、力にならねばならんのだ……！」

「待ちなさ～い！！」
　制止しようとするマサエさんを振り切り、修一郎はひた走る。
　その心は利他的で、愛と優しさに溢れた善人のものであったが、形相についてはノーコメントとさせて頂く。