白いマスクの女性の真実｜リアクション

白いマスクの女性の真実

　頭の左右に結った饅頭が弾む。赤い上着を羽織った李小麗は駅へと急ぐ。勢いで白いスカートは頻繁に捲れた。周囲の好奇の視線は黒いスパッツによって散り散りとなった。
　寝子島駅が右手に見えてきた。小麗は目に留まった朱音に大きく手を振って走り出す。
「都市子ー、しゃおりーが来たのだ！」
　突然の大声に朱音は挙動不審に陥り、違いますから、と声を重ねた。
「都市子ではないのか？　本物はどこなのだ」
　向かい合った小麗は上目遣いで尋ねる。
「あ、いえ、私が都市子ですよ。サイトの名前はペンネームなので。そのぉ、人前では少し恥ずかしくて。できれば、朱音でお願いします」
「わかったのだ♪」
「あっ、小麗ちゃんも来たんだねー」
　やっほー、と円が小走りでやってきた。近くにいた朱音には笑顔を見せる。
「飛び入りだけどいいかな？　こっちが刀くんだよ」
　後からきた刀は、よろしく、と短い挨拶を済ませた。
　集まった三人に朱音は笑顔を振り撒く。どうしたのだ？　と小麗が言葉を掛けた。
「リアルで利用者さんと会う事って滅多にないから嬉しくて。こんな軽い感じの私だけど待ってる間は結構ドキドキしてたんだよね。皆さん、今日は集まってくれて本当にありがとう」
「気にしなくていいのだ。みんなで白いマスクの人を探すのだ。聞き込みはしゃおりーに任せるのだ♪」
　話を聞いていた刀がケータイを手にした。
「俺達が集めた情報は都市伝説のサイトに書き込んでおきました。これで離れていても情報交換はできると思う」
　ケータイで目にした朱音は、ありがとう、と喜びの声を上げた。
「口裂け女の特徴がわかってきましたよ。マスクは当然として、短い髪に、白いワンピース、黄色いランニングシューズで、逃げる時は南の方面と。あ、それとハルカさんの情報に『男性、対人』の恐怖症の可能性がありましたね」
「ぼくは男の線も疑ってるんだよねー。刀くんと一緒だから心配ないけど」
「俺は円と行動を共にする。単独で動いている人もいたし、目立たない方がいいだろう」
　そうですねぇ、と決断に迷う朱音の肩をポンポンと小麗が叩いた。
「しゃおりーが付いてるのだ。八極拳で守るのだ！」
　片足を上げて拳を突き出す。そこにコツコツと杖を付くような音が近づいてきた。
「勇ましい話をしているな。俺も手伝おうか」
「お爺さんには無理……海賊の船長なのだ！」
「対処に困る驚き方だな」
　ジェームズ・ブレイクはボサボサの頭を掻いた。右目は優しく笑い、左目は黒い眼帯に塞がれていた。
　その場にいた全員が上目遣いになった。ジェームズの身長は抜きん出て高い。身体は筋肉質でＴシャツに浅く浮き出ていた。迷彩柄の長ズボンは現役の軍人のようにも思えた。
　先程まで考えが纏まらなかった朱音は、きっぱりと言った。
「少ない人数で動きましょう！」
　全員がジェームズに経緯を語り、本格的に動き始めた。
「口裂け女か……夕暮れ時に女の一人歩きは危ないだろう」
　ジェームズはズボンのサイドポケットから黒い棒状のライトを抜き出した。緩やかな動きが黒い疾風と化して前方の空間を薙ぐ。仮想の敵の顎は粉砕された。
　一瞬の動きは誰の目にも止まらない。
「俺も行くか」
　何気なく肩を回しながら人々の中に混ざっていった。