白いマスクの女性の真実｜リアクション

白いマスクの女性の真実

　明るく振る舞っていたかなえにも限界が訪れた。人の多さに比例してマスク姿の女性を頻繁に見かけるようになった。
「……めっちゃ豆腐、売れたやん。今日はおしまいでええよね？」
　かなえはリヤカーを引っ張り始めた。怯えた目をしながらも商売人の魂は健在である。
「豆腐―、とっても美味しくてー、たまに頬っぺたが落ちてまう豆腐はいかがですかー」
　リヤカーを押していた手を下ろした。円らな瞳を細くして遠くの方を見やり、瞬時に目を見開いた。
「よ、呼んでへんから、こっちにこんといて！」
　強い拒絶で両手を振っても効果はなかった。バットで通行人を蹴散らし、マスクを付けた巴が急速に迫ってくる。
　そうや！　とかなえは叫んで荷台から豆腐のパックを掴み、走ってくる巴に向かって突き出した。
「う、うちは知ってるねんで！　口裂け女は豆腐に弱い、はずなんやけど……」
　怯む様子のない巴にかなえは豆腐を持った状態で混乱した。
「な、なんでや。うちの豆腐が美味しすぎて、大好物になってもうたんか？　嬉しい、ことないわー。ちょっと嬉しい、ことないわー。でも、儲かるから嬉しい、ことないわー」
　潮の満ち引きと同じでボケとツッコミを繰り返す。その横を巴は易々と駆け抜けた。最初から視野に入っていなかったらしい。
　とふぅ～、とかなえは独特な溜息を吐いた。
「白いマスクのお姉さん、待ってなのだー！」
　へたり込むかなえの側を赤い弾丸が通り抜けた。小回りの利く身体を活かして小麗が巴との距離を縮めていく。
「んぁーっ、ここからどうすればいいのだーっ！」
　巴の背中に肉迫することは出来ても止める手段がなかった。少しでも躊躇うと引き離されて何度も見失いそうになった。
「なんで止まってくれないのだーっ」
　小麗の両頬は怒ったように膨らんで、結った頭の饅頭と連動して激しく縦に揺れた。
「しゃおりーは間違っていたのか？」
　頬の膨らみが解消していく。途端に表情が明るくなった。
「白いマスクのお姉さんで止まらないってことは、白いマスクのお兄さんなのだ。きっとそうなのだ。白いマスクのお兄さん、待ってなのだー！」
「ふざけるんじゃないよ！」
　巴は後方に向かって怒鳴った。意識が散漫になった直後に失速。隙を衝かれた形で数人に前に回り込まれ、瞬時の判断を迫られるのだった。