寝子高七不思議シリーズ：存在しない教室の存在｜リアクション

寝子高七不思議シリーズ：存在しない教室の存在

　しかし、いつまで経ってもノートが戻ってこない。
　不審に思ったひふみが教室を見回すと、２つ後ろの席に座っていた民谷鋭二がノートに熱心に書き込んでいた。隣の席の握利平が興味津々に民谷の手元を覗き込んでいる。
　ひふみは教壇の弁天さまの様子を伺いながら、静かに席を立ち忍び足で民谷の席に近づいた。

　ひふみと利平が覗き込んで来るのも構わず、民谷は普段から蓄えている神話・民話の知識を惜しげもなくノートにびっしりと書き記していた。
『弁財天と言えば、元来は河神・水神だ。
　水神に牛の首を供する雨乞儀礼や、水辺に棲み、人の影を舐めて殺す牛鬼（←が影になるわけじゃないけど）の話を聞いた事があるが、あの影の牛もそれと関係してるのか？』
　何ともマニアックな知識に、ひふみが思わずノートの余白に、
『ずいぶん、詳しいのね』と書くと、ようやく顔を上げた民谷が、得意げな笑みを見せた。

　いつの間にか、民谷の席にアリーセ、凛、小麗も集まって来た。
『弁天は音楽の神でもあるわよね？　それなら、あの琵琶がキーアイテム？』
　ひふみがノートに書き込む。
　アリーセはちらりと黒板の文字を確認して、筆談用のノートに鉛筆を走らせた。
『首輪、鈴という事は、猫って私達の事よね。扉は開くのかしら？　窓は？』
　アリーセの文章を読んで、小麗がそっと扉に近付き、ゆっくりと手を掛けた。
　扉は微かな音を立てたが、何の抵抗もなく開いた。
　それを見た利平は窓に近付き、音を立てないように気をつけながら鍵を外そうと力を込めたが、びくりともしなかった。
　扉からは簡単に出られそうだが、『一人出れば、また一人入るなり』とあるからには、他の誰かが取って代わるだけなのだろう。それでは何の解決にもならない。
　アリーセはこの現象を、ろっこんか神魂の影響だと考えていた。ならば、ルールには忠実なはず。
『最後の“弁天在る限り、教室在り”が大事だと思うわ。つまり、弁天さまさえ居なくなれば、ココも消えると言う事だと思うの。後は、どうするか…よ』
　書き終えたアリーセは、トンと軽く鉛筆の先でノートを突いた。
　凛も、机にあった鉛筆を手に、相談ノートの会話に参加する。
『床に飲み込まれた人はどうなったんだろう…さ、さすがに生きてるよね…？』
　凛は更に『助けられるといいんだけど…』と書き加えた。
　それは、ノートを囲む皆も同じ気持ちだ。
『ともかく、今は出る方法を考えよう』
　民谷はそう書くと、文字で埋まったページをめくった。

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