寝子高七不思議シリーズ：存在しない教室の存在｜リアクション

寝子高七不思議シリーズ：存在しない教室の存在

　後日、ひふみは喫茶店で後輩３人組を待っていた。

「ひふみセンパイ、お待たせしました！」
　人懐こい笑みを浮かべて、凛がひふみの元へやって来た。アリーセと小麗も一緒だ。
「ここのケーキセット、可愛いし美味しいんですよ。今日は、この前のお礼も兼ねて、奢らせて下さい」
　あの存在しない教室で助けてもらったお礼を改めて言いたいとお願いされての集まりだった。
「気にしなくていいのに」
　同じバイト先だけに、凛の懐具合の想像がつくひふみが苦笑した。
　ケーキセットを頼んで美味しいとか可愛くて食べるのがもったいないだとか他愛もない話をしていると、後ろのテーブル席の会話が聞こえてきた。

「ねぇ、知ってる？　時々、音楽室と準備室の間に、存在しないはずの教室が現れるんだって」
「えーなにそれ、怪談？」
「テレビか何かのパクリでしょ？」
「違うって。本当なんだから。その教室の扉を開けちゃった人はね…」
「どうなるの？」
「教室に入っちゃった人はね……黙って津止似のオカマの言う事を聞かないと、牛のお化けにバラバラ死体にされちゃうんだって……」
「…なにそれコワーイ」
「なにそれキモーイ…」
「もう、信じてないでしょ！　うちのクラスの子が、この間体験した話なんだから！」
　クスクス笑われる噂話の主を見かねて、たまらず小麗が振り返る。
「ホントなのだ！　でも違うのだ。教室は本当にあるのだ。でも、オカマじゃなくて弁天さまなのだ。あとバラバラ死体にはされないけど、角で串刺しにされて床に飲み込まれちゃうのだ！」
　突然会話に加わってきた小麗に戸惑う女子グループに、ひふみがにっこりと微笑みかけた。
「本当の学校の怪談話は、彼女が言った方が正しいのよ。どこで色々変わっちゃったのかしらね」
　くすくすと笑うひふみに、女子グループが顔を見合わせる。
　確かに、先生似のオカマとか牛のお化けとか、バラバラ死体にされるのに体験談とかよりも、ひふみの方が説得力があった。
　女子グループ達は納得して、今度は小麗の話した怪談話を誰に話そうかと盛り上がっている。

　小麗がむくれた顔でケーキをほおばった。
「笑い話じゃないのだ。ホントにホントに怖かったのだ…」
　アリーセがよしよしと小麗の頭を撫でてくれる。
　小麗はふにゃりと顔をゆるませ、凛を見て微笑んだ。
「でも、怖いことばっかりじゃなかったのだ。新しい友達も出来たし」
　今度はひふみに笑顔を向ける。
「かっこいいセンパイも見つけたのだ」
　ひふみと凛は笑いながら、自分のケーキを一口分、小麗のケーキ皿に分けてあげた。
「ありがとうなのだ！　美味しくて幸せなのだー！」
　小麗の本当に嬉しそうな顔を見ながら、アリーセと凛、ひふみは甘いケーキをゆっくりと味わった。

おしまい。

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